「14日間飲めば、その後は抗うつ薬を飲まなくてよいのですか」
ザズベイについては、この点が最も気になると思います。
ザズベイは、ズラノロンを有効成分とする新しい抗うつ薬です。日本では2025年12月に承認され、2026年3月に販売が始まりました。従来の抗うつ薬の多くが毎日継続して使われるのに対し、ザズベイは30mgを1日1回、14日間だけ夕食後に服用するという、かなり異なる使い方をします。
ただし、「2週間で必ず治る薬」でも、「14日後から診察も治療も不要になる薬」でもありません。効かなかった時、効果が続かなかった時、眠気やめまいが強かった時にどうするかまで含めて、一つの治療として考える薬です。
この記事では、国内添付文書、PMDAの審査情報、国内外の臨床試験、米国と英国の承認情報をもとに、作用機序、適応、用法、効果、副作用、治療後の考え方を整理します。発売から日が浅いため、研究で分かっていることと、まだ分からないことを分けて説明します。
セロトニンではなく、GABAの働きを調整します
SSRIやSNRIは、主にセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害します。ザズベイは、脳の主要な抑制性神経伝達物質であるGABAの働きを調整します。
ズラノロンは、体内で作られる神経活性ステロイドであるアロプレグナノロンに似た構造を持ち、GABAA受容体のポジティブアロステリックモジュレーターとして働きます。GABAそのものの代わりになるのではなく、GABAが受容体へ作用した時の抑制性電流を強めます。
シナプスにある受容体だけでなく、シナプス外の受容体にも作用し、一過性の抑制と持続的な抑制の両方を増強すると考えられています。
過剰な神経活動を抑える仕組み
GABAによる抑制性の信号を強め、神経回路の興奮と抑制のバランスへ働きかけます。
体内物質に着想を得た薬
アロプレグナノロンに似た神経活性ステロイドで、従来のSSRIやSNRIとは異なる作用点を持ちます。
短期間の治療コース
毎日ずっと飲み続けるのではなく、14日間の投与後に状態を観察する設計です。
GABAに作用しても、ベンゾジアゼピンと同じ薬ではありません
ザズベイもベンゾジアゼピン系薬もGABAA受容体の働きを強めます。そのため、眠気、めまい、鎮静、ふらつきなど、重なる部分があります。
ただし、結合する部位や薬理学的な特徴は同じではありません。ザズベイを「強い睡眠薬」や「長く効くベンゾジアゼピン」と置き換えて理解するのは正確ではありません。
一方で、GABAへ作用する新薬だから依存の問題がない、とも言えません。国内では習慣性医薬品に指定され、添付文書にも薬物依存を生じるおそれがあるため用法・用量を守り、再治療の必要性を十分に検討するよう記載されています。
国内の適応は「うつ病・うつ状態」です
日本で承認されている効能・効果は、成人のうつ病・うつ状態です。位置づけは、抑うつ症状がある方の急性期治療です。
症状が寛解または回復した後に、再燃や再発を予防するため、間を空けずに飲み続ける薬ではありません。14日間の治療で改善がみられない場合は、ザズベイを繰り返すのではなく、他の抗うつ薬など別の治療を検討します。
海外で産後うつ病に承認されているからといって、日本で産後うつ病だけに使う薬という意味ではありません。反対に、日本で一般のうつ病に承認されているからといって、海外でも同じ評価を受けているわけではありません。
米国では、一般の大うつ病性障害に対する承認申請も行われましたが、承認されたのは産後うつ病でした。海外の一般的なうつ病の試験は、明確に有効だった試験と、主要評価項目を達成しなかった試験があり、結果は一貫していません。
30mgを1日1回、14日間、夕食後に服用します
国内の用法・用量は明確です。成人は、ズラノロンとして30mgを1日1回、14日間、夕食後に服用します。14カプセルが一つの治療コースになります。
- 服用量1日30mgです。国内では通常の増量段階や維持量は設定されていません。
- 服用期間14日間です。自己判断で期間を延ばしたり、余った薬を後から使ったりしません。
- 服用時刻夕食後です。食事によって吸収が大きく変わるため、「夜ならいつでもよい」ではありません。
- 再治療再度使用する場合も、前の治療終了から6週間以上あけます。
食事の影響は小さくありません。健康成人では、高脂肪・高カロリー食後に服用した時、空腹時と比べて最高血中濃度が4.09倍、薬の総曝露量が2.33倍になりました。夕食をほとんど取れなかった日や、服用を忘れた時にどうするかは、自己判断せず処方医や薬剤師へ確認します。
なぜ「14日間だけ」なのでしょうか
14日間は、単に新薬なので短く試すという意味ではありません。臨床試験が14日間の治療コースとして設計され、その後に薬を終了して効果と安全性を観察したことに基づく用法です。
従来の抗うつ薬は、効果が得られた後も再発予防のため一定期間継続することが一般的です。ザズベイは、急性期に短期間作用させ、その後は投与せず経過を見るという考え方です。
ただし、服用を終えた後に何もしなくてよいわけではありません。症状、睡眠、活動性、自殺念慮、副作用を継続して確認し、精神療法、生活調整、休職や復職支援などを必要に応じて続けます。
国内第III相試験では有効性が示されましたが、差は大きくありません
国内第III相試験では、中等度以上の大うつ病性障害がある成人412人が、ズラノロン30mg群とプラセボ群に無作為に分けられ、14日間服用しました。主要な有効性解析の対象は404人でした。
15日目のHAM-D17合計点は、ズラノロン群で平均7.43点、プラセボ群で6.23点低下しました。群間差は1.20点で、統計学的には有意でした。3日目と8日目にもプラセボを上回る改善が示され、効果が比較的早く現れる可能性があります。
一方、投与終了後の22日目から57日目には、群間の統計学的な有意差は確認されませんでした。試験全体ではザズベイ群の改善がプラセボ群を上回りましたが、平均差は大きくありません。
この数字は、「ほとんど効かない」という意味でも、「多くの方に劇的に効く」という意味でもありません。集団平均の差は小さくても明確に反応する方がいる一方、ほとんど変化しない方、副作用の方が目立つ方もいます。新しい作用機序と、実際の効果の大きさは分けて考える必要があります。
早く効く可能性はありますが、「即効性」を約束する薬ではありません
国内第II相・第III相試験では、3日目からプラセボとの差が示されました。海外の一般の大うつ病性障害や産後うつ病の試験でも、数日以内の改善が報告されています。
これは、数週間かけて効果を評価する従来薬とは異なる可能性を示します。ただし、早く変化することと、十分に回復することは同じではありません。
数日で変化することがある
気分、不安、睡眠などが早い段階で動く可能性があります。
全員に早く効くわけではない
14日間で十分な改善がなければ、同じ治療をすぐ繰り返しません。
持続は個別に確認する
終了後に効果が続くか、再燃するかを定期的に評価します。
生活機能も見る
点数だけでなく、起床、食事、外出、家事、仕事へ戻る力を確認します。
他の抗うつ薬へ足せば、より効くとは示されていません
「今の抗うつ薬を続けたまま、ザズベイを2週間だけ追加すればよい」と考えたくなるかもしれません。しかし、日本の添付文書は、その使い方を基本とはしていません。
SSRI、SNRIまたはボルチオキセチンを服用中の107人を対象に、ザズベイまたはプラセボを14日間上乗せした国内試験では、50%以上改善した割合がザズベイ群13.2%、プラセボ群21.6%で、上乗せ効果は示されませんでした。
そのため、他の抗うつ薬で治療中の方へ急性期治療として用いる場合は、ザズベイ単剤による治療を検討するよう添付文書に記載されています。ただし、既存薬からの切り替え方を一律に決められるわけではありません。国内の単剤試験では前治療薬を14日間中止してから投与しており、中止直後にザズベイへ切り替えたデータはありません。
既存薬を急に中止すると離脱症状や病状悪化が起こることがあります。切り替えは、薬の種類、用量、服用期間、これまでの離脱症状を踏まえて個別に考えます。
眠気とめまいは、効果とは別に確認します
国内添付文書にまとめられた主な副作用は、傾眠20.0%、めまい12.6%です。悪心、下痢、口の渇き、頭痛、振戦、鎮静、注意力低下、健忘、倦怠感、浮遊感などが起こることもあります。
国内第III相の単剤試験では、副作用は34.1%に報告され、主なものは傾眠13.2%、浮動性めまい12.2%、異常感6.3%でした。
- 眠気・鎮静:よく眠れたという利点になることもありますが、日中の活動や判断力を落とすことがあります。
- めまい・ふらつき:立ち上がりや歩行、夜間のトイレで転倒しないよう注意します。
- 注意力低下・健忘:会議、事務作業、機械操作などへ影響する可能性があります。
- 悪心・下痢・口の渇き:食事や服薬継続へ影響する場合は相談します。
- 錯乱状態:頻度は不明ですが、せん妄や失見当識が重大な副作用として記載されています。
14日間の服用中は、運転や危険作業をしません
国内添付文書では、眠気やめまいが現れることがあるため、投与中は自動車の運転など危険を伴う機械操作に従事させないよう注意するとされています。
「夕食後に飲めば、翌朝は大丈夫」とは限りません。健康な日本人へ30mgを食後に1回投与した時の半減期は約13.9時間でした。翌朝の眠気を本人が十分に自覚できない可能性もあります。
通勤で自動車やバイクを使う方、業務で運転する方、高所作業、重機、刃物、患者さんや子どもの安全を預かる仕事では、14日間の生活と勤務を具体的に調整してから始めます。
「産後うつ病の薬」と「妊娠中に使える薬」は同じではありません
米国と英国で産後うつ病に承認されていることから、妊娠・出産に関連して安全な薬と思われるかもしれません。しかし、日本では妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌です。
妊娠する可能性のある方は、服用中と最終服用後1週間、適切な避妊が必要です。授乳中は、治療上の利益と母乳栄養の利益を考え、授乳を続けるか中止するかを検討します。
産後うつ病は「出産後」の病気です。海外で産後うつ病に使われることは、妊娠中にも安全に使えることを意味しません。
睡眠時無呼吸症候群や呼吸障害がある方は、特に慎重に考えます
睡眠時無呼吸症候群、または中等度以上の呼吸障害がある方では、呼吸抑制が現れるおそれがあります。
大きないびき、睡眠中に息が止まる、朝の頭痛、日中の強い眠気、肥満、高血圧がある場合は、服用前に医師へ伝えてください。「眠れるようになった」だけで判断すると、睡眠の質や夜間の呼吸の悪化を見落とすことがあります。
アルコールと鎮静作用のある薬は、眠気を強めます
ベンゾジアゼピン系薬、ミルタザピン、三環系・四環系抗うつ薬など、中枢神経を抑える薬と併用すると、鎮静が強くなるおそれがあります。飲酒でも認知機能と中枢神経抑制への影響が強まるため、服用中は避けることが望ましいとされています。
ザズベイは主にCYP3Aで代謝されます。クラリスロマイシンや一部のアゾール系抗真菌薬などは血中濃度を上げ、カルバマゼピン、フェニトイン、リファンピシンなどは作用を弱める可能性があります。
市販薬、サプリメント、他院の薬も含め、14日間だけだから申告しなくてよい薬はありません。
服用が終わった後に、1~2週間ごとの評価が役立ちます
PMDAの適正使用ガイドでは、14日間の投与終了後も、1~2週間ごとを目安に症状、副作用、治療に対する希望を確認することが示されています。
診察では、単に「効きましたか」と聞くだけでは足りません。
- 抑うつ症状気分、興味、罪悪感、希死念慮がどの程度変わったか。
- 身体と生活睡眠、食欲、起床、外出、家事、日中の活動が戻ったか。
- 副作用眠気、めまい、ふらつき、注意力低下がいつまで続いたか。
- 効果の持続服用終了後も改善が続くか、早い段階で症状が戻るか。
- 次の治療経過観察、精神療法、環境調整、別の薬のどれが必要か。
終了から6週間未満で症状が悪化し、薬物治療が必要になった場合は、ザズベイをすぐ再開するのではなく、別の抗うつ薬など他の治療を検討します。
新薬だから先に使うのではなく、短期治療が合うかを考えます
ザズベイには、作用機序が新しく、治療コースが短く、数日で変化する可能性があるという魅力があります。一方、国内第III相試験におけるプラセボとの差は1.20点で、投与終了後の群間差は明確ではありません。上乗せ治療の有効性も示されませんでした。
また、日本で販売されてからまだ日が浅く、長期的な実臨床経験、どの患者さんが特に反応しやすいか、再治療をどう組み立てるとよいかについて、今後のデータ蓄積が必要です。
だから、従来薬より新しいから優れている、14日間だけだから負担が少ない、と一律には判断しません。
選択肢になりうる場面
急性期のうつ病で、短期間の治療コースと比較的早い効果が治療上の利点になりうる。
生活調整が必要な場面
運転や危険作業がある。眠気やふらつきが転倒・事故へつながりやすい。
別の選択肢も考える場面
14日後も改善が乏しい。終了後6週間未満に悪化した。維持療法が必要と考えられる。
国内で投与できない場面
妊娠中、または妊娠している可能性がある。成分への過敏症歴がある。
早めの医療評価が必要な変化
強い眠気で起きられない、転倒した、意識が普段と違う、場所や時間が分からない、呼吸が浅いと感じる場合は、早めに医療機関へ相談してください。
抗うつ薬の治療中には、病状の悪化、強い焦燥、衝動性、軽躁・躁状態、自殺念慮が現れることがあります。特に治療開始後の急な変化は、薬の効果が出るまで待つのではなく評価が必要です。
働く方では、14日間の「治療期間」を先に設計します
服用期間が短くても、その14日間を普段通りに過ごせるとは限りません。運転できない、翌朝に眠気が残る、集中力が落ちる可能性を前提に、勤務と通院を組み立てます。
休職中であれば、服用終了をそのまま復職可能の目安にはしません。睡眠、起床、日中の活動、通勤練習、集中力、疲労の戻り方を確認します。
就業中であれば、在宅勤務、危険作業の回避、重要な意思決定のタイミング、家族の協力などを相談します。短期治療だからこそ、開始日を生活の予定と合わせることが大切です。
ストールやモーズレイだけでは、まだ十分に扱えない新薬です
これまでの薬の記事では、『ストール精神薬理学エセンシャルズ』や『モーズレイ処方ガイドライン』も参照してきました。ただ、手元の日本語版はザズベイの国内承認より前に刊行されており、この薬の現在の国内用法を判断する中心資料にはできません。
今回は、2026年3月改訂の国内添付文書、PMDAの適正使用情報、承認審査に使われた国内試験、FDAとMHRAの承認情報を優先しました。新薬では、教科書に載っている一般的な薬理より、最新の添付文書と承認条件を確認することが重要です。
まとめ
ザズベイは、ズラノロンを有効成分とする、アロプレグナノロン様GABAA受容体機能賦活剤です。日本では成人の「うつ病・うつ状態」の急性期治療として、30mgを1日1回、14日間、夕食後に服用します。
国内試験では3日目から改善がみられ、15日目にプラセボを上回りました。一方、平均の群間差は1.20点で、終了後22~57日には明確な群間差が確認されませんでした。他の抗うつ薬への上乗せ効果も示されていません。
眠気、めまい、注意力低下があり、服用中の運転は禁止です。妊娠中または妊娠の可能性がある方には使えません。睡眠時無呼吸、呼吸障害、飲酒、鎮静薬、CYP3Aへ影響する薬にも注意します。
ザズベイは、「2週間で終わる楽な抗うつ薬」ではありません。短い期間に何が変わり、服用終了後にその変化がどう続くかを丁寧に観察する薬です。新しさだけで選ばず、症状、生活、仕事、安全性、治療後の見通しまで含めて使うことが大切です。
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参考資料
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA). ザズベイカプセル30mg 添付文書(2026年3月改訂、第2版). 添付文書
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA). ザズベイカプセル30mg 適正使用ガイド. 適正使用ガイド
- 厚生労働省. 2025年10月30日 薬事審議会 医薬品第一部会 議事録. 議事録
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- Medicines and Healthcare products Regulatory Agency. MHRA approves zuranolone to treat postnatal depression in adults following childbirth. 2025. GOV.UK
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断や処方変更に代わるものではありません。海外の承認や研究結果は、国内の承認用法や保険適用を意味しません。服用中の薬を自己判断で開始・中止・変更せず、ザズベイを処方された目的と14日間終了後の方針を主治医へ確認してください。

