薬で変えやすいこと
不眠や不安、抑うつなどが強い時、症状を少し下げることで、食事、入浴、外出、環境調整や心理的な取り組みに向かう余力が生まれることがあります。
TREATMENT POLICY
「一度飲み始めたら、やめられなくなるのでは」「薬でぼーっとして、仕事ができなくなるのが怖い」「症状だけ抑えても、結局また同じことになるのでは」。精神科の薬に抵抗がある方は少なくありません。
その気持ちの奥に、自分の頭や感情を薬に変えられるような怖さ、薬がないと生活できない人になる怖さ、「精神科の患者」になったら元に戻れないような怖さが含まれることもあります。
当院はその不安を否定して、「必要だから飲んでください」だけで治療を進めません。一方で、薬を使わないこと自体を、治療の成功とも考えません。
今の苦しさのうち、何を薬に任せるのか。何を自分で取り戻していくのか。何を職場や生活の側で変えるのか。それぞれを分けて考えます。
執筆・監修:院長 秋田玄武/精神科専門医
不眠、不安、意欲低下などに薬が役立つことはあります。ただし、長時間労働、繰り返される人格否定、苦手な仕事を残業で補う働き方、「迷惑をかけてはいけない」と限界まで抱え込むことが背景にあるなら、そこにも手を入れる必要があります。
不眠や不安、抑うつなどが強い時、症状を少し下げることで、食事、入浴、外出、環境調整や心理的な取り組みに向かう余力が生まれることがあります。
過重な仕事量、安全でない人間関係、断れない働き方、自分の価値を仕事だけで支えることは、薬を飲むだけでは変わりません。同じ環境へそのまま戻れば、再び消耗する可能性があります。
薬は人生を代わりに立て直すものではありません。一方で、10の不安が6に下がることで、自分で立て直すための一歩を選べるようになることはあります。
薬を少なくするのは、何もせず自然に良くなるのを待つことではありません。症状を作り、維持している仕組みに手を入れます。
起床時間、日中の活動、カフェイン、寝床での過ごし方などを確認し、眠れる条件を作ります。症状によっては、睡眠衛生だけでなく治療が必要です。
残業、担当業務、期限、上司との接点、出勤そのものを含め、今の心身で支払える要求量かを見直します。休養や診断書が現実的な手段になることもあります。
人格否定、ハラスメント、過度な干渉など実害がある時は、本人の受け取り方だけを変えるのではなく、距離、記録、相談ルートなどを考えます。
不安で何度も確認する、人に頼れず仕事を抱えるといったパターンの中で、短期的に得ている安心と、長期的な負担を整理します。
ADHDなどの特性があり、頭の中だけでは仕事が回りにくい時は、メモ、予定、チェックリスト、配置、人の助けを使います。本人の注意力だけに任せない工夫です。
本人ができることを増やすだけでなく、要求を下げる、補助を増やすという二つの方向も使います。頑張り続けなくても生活が回る形を探します。
当院は「薬を出さないクリニック」ではありません。薬物療法の利益が大きいと考えられる時は、その理由をご説明します。
「病名がついたから飲む」ではなく、何の症状を、どの程度改善するために使うのかをできるだけ明確にします。緊急性が高い時や当院だけでの対応が難しい時は、適切な医療機関につなぎます。
薬によって、期待できる効果、注意する副作用、継続の目安、中止時の注意は異なります。一括りにせず、薬ごとに考えます。
症状改善後も一定期間継続した方がよい薬も、状態が安定すれば減量や終了を検討できる薬もあります。始める理由、効果を見る目安、見直す時期を共有します。
眠気がつらい、依存が怖い、薬を飲んでいる自分が嫌だ、症状が安定した。理由によって確認すべきことは変わります。急な中止を避け、医師と相談しながら検討します。
睡眠、生活リズム、心理的な取り組み、環境調整、周囲の支援などが整っていると、減量を考えやすくなることがあります。減らすことだけを目的にしません。
まず、症状、経過、睡眠、生活、仕事の状況、治療へのご希望を確認します。薬が必要と考えられる場合には理由をご説明しますが、すべての方に一律に薬物療法を行うわけではありません。
大丈夫です。薬を避けたい理由も、治療を考える大切な情報です。一方、薬を使う利益が大きい状態では、その理由も率直にお伝えします。ご希望を尊重することと、医学的な提案をすることは両立できます。
薬が多いことだけで「悪い処方」とは決まりません。まず、それぞれの薬が何の目的で使われ、現在も必要か、効果や副作用はどうかを確認します。減らす場合も、一度にすべてを変えず、安全性を確認しながら検討します。
すべての精神科薬に依存性があるわけではありません。一部の睡眠薬や抗不安薬などは、長期使用や中止方法に注意が必要です。また、依存とは別に、急な中止で離脱症状が起こり得る薬もあります。「精神科の薬」と一括りにせず、薬ごとに考えます。
治療の選択、薬の見直し、職場環境の調整に関する公的機関のガイドを参考にしています。