KOKORO NO SHIKUMI

自傷行為には、どんな「意味」があるのか

コラム

こころの仕組み

――「やめさせる」前に、その行為が何をしてくれているのかを考える

腕を傷つける。自分の身体を痛める。薬を必要以上に飲む。こうした自傷行為を知ると、周囲はまず、「どうしてそんなことをするの?」「もう絶対にしないで」と思います。本人自身も、「自分でも分からない」「やめたいのに、またやってしまう」と話すことがあります。

外から見ると、自分をさらに苦しめる行動に見えます。でも、繰り返される自傷行為には、ときどき、その瞬間の苦しさを何とかするための役割があります。

だから対応では、「自傷行為はよくないからやめましょう」だけでは足りません。まず、「その行為によって、何が少し楽になっているのか」を理解する必要があります。

NICEでは、自傷を、明らかな目的にかかわらず、意図的に自分を傷つけたり、自分に有害な物質を摂取したりする行為と広く捉えています。つまり、自傷行為を見ただけで「死ぬつもりだった」「死ぬつもりはなかった」と決めつけず、その人ごとの背景や安全性を評価することが重要です。NICE「Self-harm: assessment, management and preventing recurrence」

自傷行為は、「痛いことをしたい」から起きるとは限らない

強い不安、怒り、悲しみ、恥、孤独、自己嫌悪。こうした感情が一度に押し寄せて、頭の中がいっぱいになる。何をしても落ち着かない。言葉にもできない。そんな時、自傷したあとだけ、一瞬静かになる。「頭の中が止まる」「少し落ち着く」「それまでより楽になる」と感じる人がいます。

つまり、自傷行為そのものを求めているというより、その後に訪れる一時的な変化を求めている場合があります。

自傷行為が担うことのある八つの役割

強すぎる感情を下げるため

自傷行為の意味として、まず考えられるのが、感情を調整することです。つらい。腹が立つ。不安で仕方がない。でも、どう処理したらいいか分からない。その時、自傷すると、感情の強さが一時的に下がる。すると脳は、「苦しくなった時は、これをすると少し楽になる」と覚えてしまうことがあります。

短期的には

苦しさが下がる

長期的には

「強い感情が出たら自傷する」という結びつきが強くなる

だから本人も、「やめたいのに、苦しくなるとまた戻ってしまう」という状態になります。

「何も感じない」状態から戻るため

少し逆のこともあります。つらすぎて、感情がなくなった感じがする。自分が自分ではない。現実が遠い。頭がぼんやりする。何も感じない。こういう時に、自分の身体への刺激によって、「自分がここにいる」という感覚を取り戻そうとすることがあります。

つまり、感情が強すぎる時だけではなく、感情や現実感が遠くなりすぎた時にも、自傷が使われることがあるということです。この場合には、解離的な状態が関係していないかも含めて評価します。

自分を罰するため

「全部自分が悪い」「自分には価値がない」「こんな自分は許せない」という気持ちが強い人では、自傷が、自分への罰になることがあります。

仕事で失敗した。人に迷惑をかけたと思った。誰かを傷つけた気がする。すると、申し訳なさや恥を、「自分も苦しまなければならない」という形で処理する。ここでは、自傷行為だけを見るより、その前にある、強い自己批判や罪悪感を扱う必要があります。

言葉にできない苦しさを、外へ出すため

「どうしたの?」と聞かれても分からない。「何がつらい?」と言われても説明できない。でも苦しい。そんな時、身体の傷が、言葉にならなかった苦しさを目に見える形へ変えていることがあります。

これは、「人に見せたいからやっている」という単純な話ではありません。本人自身にも、自分の苦しさがどれほど大きいのか分からないことがあります。身体に現れることで初めて、「自分はかなりつらかったんだ」と分かる場合もあります。

「自分で決められるもの」を取り戻すため

家庭、学校、職場、人間関係。自分では変えられないことが多い。何をしても状況が変わらない。誰も分かってくれない。そんな無力感が強い時、自傷が、少なくとも自分の身体については、自分で決められるという感覚につながることがあります。

もちろん、その方法は本人を傷つけます。でも背景には、「痛みを求めている」というより、何も自分で動かせないという苦しさがあるのかもしれません。

「こころの痛み」を、もっと分かりやすいものへ変えるため

こころの苦しさには場所がありません。どこが痛いのか分からない。いつ終わるのかも分からない。理由もよく分からない。一方で、身体の痛みは比較的はっきりしています。

そのため、漠然とした苦しさを、より具体的な身体感覚へ移すことで、少し扱いやすく感じる人もいます。つまり、分からない苦しさを、分かる苦しさへ変えているような側面です。

誰かに「気づいてほしい」が含まれることもある

自傷について、「かまってほしいだけ」という言葉が使われることがあります。これは、かなり雑な理解です。

仮に、「誰かに気づいてほしい」「一人では無理だと分かってほしい」という意味が含まれていたとしても、それは、助けを必要としているという重要な情報です。苦しい時に、「助けて」と言葉で言える人ばかりではありません。

だから周囲が見るべきなのは、「注目を集めようとしているか」ではなく、「この人は、何を言葉にできずにいるのか」です。

「死にたい」と自傷行為は、同じではない。でも完全に別でもない

自傷した人の中には、「死ぬつもりはなかった」という人もいます。実際、自傷と自殺行動では、その時の意図が異なることがあります。

しかし、だからといって、「死ぬつもりがないから大丈夫」とは言えません。自傷と希死念慮は同時に存在することがありますし、時期によって意図が変化することもあります。また、自傷歴のある人では、その後の自殺リスクも高くなることが知られています。NICEも、自傷後にはその人の心理状態、苦痛、安全性、背景を個別に評価するよう求めています。NICEガイドラインの背景

「これは自傷だから、自殺とは関係ありません」とは決めつけない。

毎回、「今、死にたい気持ちはある?」「自分を止められそう?」「一人で安全に過ごせそう?」という安全確認が必要です。

自傷行為が続く理由は、「意味があるから」

1

つらくなる

2

自傷したくなる

3

自傷する

4

一時的に楽になる

5

またつらくなると、自傷が浮かぶ

自傷は本人にとって、高コストだけれど即効性のある対処法になっていることがあります。自傷した。一瞬楽になった。次につらくなった時、また思い出す。再び自傷する。また少し楽になる。この学習があるから、「もうやめて」だけでは難しいのです。

「やめさせる」だけでは、空白ができる

自傷することで、怒りを下げていた。不安を下げていた。現実感を戻していた。自分を罰していた。助けを伝えていた。その人に、「もう絶対やらないで」だけを伝えると、自傷が担っていた仕事だけが残ります。

苦しい。でも、今までの方法は使えない。代わりの方法はまだない。これでは、かなりつらい。だから対応では、「自傷をなくす」と「自傷が担っていた役割を別の方法へ移す」をセットで考えます。

まず、自傷の直前を一緒に見る

原因を深く掘る前に、直前の流れを見ると役に立ちます。何があった? 身体はどうなった? どんな感情だった? 何を考えた? 自傷したくなったのはいつ? その後どうなった?

出来事

上司から強く注意された

感情

恥ずかしい、怖い

考え

「自分は何をやってもダメ」

持続

帰宅後も頭から離れない

行動と変化

自傷し、頭の中が一時的に静かになった

ここまで分かれば、「自傷行為」という一点だけでなく、もっと手前で介入できる場所が見つかります。

自傷行為が起きた時の六つの対応

  1. まず傷と安全を確認する心理的な意味を考える前に、身体の安全が優先です。傷の程度、出血、意識状態、薬物やアルコールの影響、医療処置の必要性を確認します。現在の希死念慮や自殺の意図、切迫感、一人で安全に過ごせる状況かも確認します。NICEも、身体的な重症度、精神状態、苦痛、直近の安全性を早期に確認し、身体的治療と心理社会的評価を並行して行うことを推奨しています。
  2. 「なぜ?」より、「その前に何があった?」と聞く「なんでやったの?」と聞かれると、本人も責められているように感じることがあります。「その前に何があった?」「一番つらくなったのはいつ?」「その時、何を何とかしたかった?」と聞くと、行為が必要になった流れを一緒に見やすくなります。
  3. 自傷後の「楽になった部分」を聞くこれは自傷を肯定するためではなく、再発予防のためです。「頭が静かになった」なら感情の鎮静、「現実に戻った感じがした」なら解離への対処、「自分を罰したら少し納得した」なら自己批判や罪悪感を扱う必要があるかもしれません。効果が分からなければ、代わりの方法も選べません。
  4. 自傷したくなる「もっと前」に気づく眠れない、食事が減る、人と会わなくなる、自己否定が強くなる、会社からの連絡に身体が強く反応する、「消えたい」が増える。こうした段階で気づけると、休む、人に連絡する、予定を減らす、診察を早める、環境から離れるという対応ができます。
  5. 「耐える」ではなく、時間をつくる衝動が出た時、「絶対やってはいけない」と追い詰めるだけでは難しいことがあります。今すぐ行動しない時間を少し作る。一人にならない。安全な場所へ移る。信頼できる人へ連絡する。医療機関へつながる。危険につながるものから距離を取る。安全計画には、警告サイン、本人に合う対処法、頼れる人、医療機関の連絡先、安全な環境づくりを具体的に含めます。
  6. 「一人で止める」ことをゴールにしない自傷衝動が強い時に、全部を本人の意志力へ任せるのは難しいことがあります。誰に連絡するか、診療時間外はどうするか、一人にならないためにはどうするか、危険が高まったらどこへ行くかまで決めます。本人の意志だけでなく、環境にも自傷を止める仕事をしてもらいます。

安全計画を含む推奨事項は、NICEガイドラインの推奨事項で確認できます。

「低・中・高リスク」の一言だけで終わらせない

自傷行為を見ると、「この人はハイリスク」「これは軽い自傷だからローリスク」と分類したくなることがあります。しかし、自傷や自殺の将来予測を、単純な点数や「低・中・高」という分類だけで判断することは推奨されていません。

NICEでは、こうしたリスク尺度や単純なリスク層別化で将来の自殺・再自傷を予測したり、治療や退院を決めたりしないよう勧告しています。大切なのは、その人の現在の苦痛、背景、脆弱性、支え、安全性を個別に理解することです。

家族や周囲にできること

「約束させる」より話せる関係を残す

自傷を知ると、「もう二度としないと約束して」と言いたくなります。でも、本人が再び衝動を感じた時、約束を破ることへの罪悪感が加わると、逆に相談しづらくなることがあります。

だから、「しないと約束して」だけではなく、「またしたくなった時には、する前でもした後でも教えてほしい」と言える関係を残す。自傷を容認するわけではありません。隠さなくても助けにつながれる状態を作るということです。

「怒らない・責めない」は、自傷を認めることではない

「そんなことするなんて」「家族の気持ちを考えて」「またやったの?」。こう言いたくなる気持ちは自然です。でも、羞恥や自己嫌悪が自傷の背景にある人では、責められるほど、さらに自己否定が強くなることがあります。

必要なのは、行為を肯定することではなく、人を責めずに、安全と背景を扱うこと。「自傷しない方がいい。でも、したくなるくらい苦しかったことは一緒に考えたい」くらいの位置です。

自傷を「性格」や「人格」の問題にしない

自傷行為があるから、「依存的な人」「感情的な人」「境界性だから」と一つの人格像にまとめないことも重要です。

うつ病、不安症、PTSD、発達特性、解離、摂食障害、対人関係の問題、強い孤立。さまざまな背景で自傷は起こり得ます。診断名だけでその意味を決めるのではなく、その人にとって、この行為が何をしているのかを個別に見ます。

自傷行為だけを治療しない

自傷を止めても、仕事が限界、家庭が危険、孤立している、眠れない、強い自己否定が続く。それなら、また苦しさは上がります。

だから、自傷行為そのものだけではなく、自傷しなければならないほど苦しくなっている生活も一緒に変える必要があります。仕事量を減らす。学校や職場を調整する。人間関係から距離を取る。治療する。睡眠を整える。支援を増やす。自傷を本人だけの問題にしないことです。

自傷行為の「意味」が分かったら、次にすること

自傷すると不安が下がるなら、目標は「自傷する自分を責める」ではありません。不安を下げる方法を増やす。自傷すると現実感が戻るなら、解離への対処を増やす。自傷が自己処罰なら、自己批判や罪悪感を扱う。「助けて」が言えない代わりなら、もっと早い段階で助けを求める方法を作る。

自傷行為を取り上げるのではなく、自傷行為が一人で担当していた仕事を、ほかの方法へ分担する。

これが治療です。

自傷行為への対応で、一番大切にしたいこと

自傷行為を見ると、どうしても「やめさせなければ」と思います。安全のため、それは当然です。でも、自傷行為だけを消そうとすると、その人が何とか生き延びるために使っていた方法だけを取り上げてしまうことがあります。

だから、もう一つ問いを置きます。「この行為は、この人を何から守っているんだろう」

強すぎる感情? 何も感じない怖さ? 自己嫌悪? 孤独? 無力感? 言葉にならない苦しさ? そこが分かると、対応が変わります。

「やめなさい」から、「この方法が必要になる前に、何ができるだろう」へ。

そして、「同じ役割を、もう少し自分を傷つけない方法に移せないだろうか」へ。自傷行為を理解するというのは、自傷を肯定することではありません。むしろ、自傷そのものだけを見るのをやめ、その人が何を何とかしようとしていたのかを見ること。そして、一人で苦しさを処理しなくてもよい仕組みを増やすことです。

それが、自傷行為を減らしていくための出発点になるのだと思います。

参考資料

本記事は一般的な心理教育を目的としたもので、個別の診断や治療、安全性評価に代わるものではありません。自傷や自殺について心配がある場合は、医療機関や適切な支援先へご相談ください。緊急性がある場合は119番または救急外来を利用してください。

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