DIRECTOR'S JOURNAL

精神科・心療内科で使う漢方薬――不安・不眠・イライラ・身体症状から考える

コラム

「不安には、どの漢方がよいですか」

診療では、よく聞かれる質問です。半夏厚朴湯、加味逍遙散、抑肝散、酸棗仁湯に加え、PTSDやフラッシュバックとの関係で「神田橋処方」を調べて受診される方もいます。

ただ、漢方薬は「不安ならこれ」「眠れないならこれ」と、症状名だけで一対一に決めるものではありません。同じ不眠でも、心身が疲れ弱って眠れないのか、神経が高ぶって眠れないのか、動悸や喉のつかえが続いて眠れないのかで、検討する処方は変わります。

漢方の選択では、いちばん困っている症状に加えて、一緒に起きる身体症状、体力、食欲、便通、月経、年齢、服用中の薬まで確認します。

症状名より、「症状のまとまり」を見ます

MAIN中心の症状

不安、不眠、イライラ、喉のつかえ、めまいなど、何が最も生活を妨げているか。

WITH一緒に起きること

動悸、吐き気、疲れ、冷え、食欲、便通、月経など、中心症状と連動する変化。

WHOLE身体と環境

体力、持病、妊娠、年齢、他の薬、仕事や家庭の負荷を含めた全体像。

喉のつかえ・めまい・動悸など、身体症状から考える

不眠・疲労・考えすぎから考える

イライラ・神経のたかぶりから考える

月経・更年期に伴う心身の波から考える

トラウマ・フラッシュバックから考える

「漢方だから副作用がない」わけではありません

複数の漢方薬、一般用医薬品、健康食品を一緒に使うと、同じ生薬が重なることがあります。特に甘草を含む処方の重複では、偽アルドステロン症や低カリウム血症が起こりやすくなります。

  1. 甘草の重複むくみ、血圧上昇、体重増加、脱力、筋けいれんに注意します。
  2. 山梔子の長期使用長期投与では腸間膜静脈硬化症に注意し、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満などを確認します。
  3. 黄芩を含む処方まれな間質性肺炎や肝機能障害の徴候として、発熱、空咳、息苦しさ、黄疸などに注意します。
  4. 病気の見逃し胸痛、失神、嚥下障害、麻痺などは、ストレスや「自律神経」だけで説明せず身体疾患を評価します。

エビデンスは、処方と対象によって違います

漢方製剤には無作為化比較試験や診療ガイドラインへの記載があるものもありますが、研究規模、対象、評価方法は処方ごとに異なります。伝統的に使われてきたことと、現在の診断に対して大規模試験で効果が確立していることは同じではありません。

日本東洋医学会も、漢方だけを切り離して判断せず、各領域の診療ガイドライン全体の中で位置づけを確認する必要があると説明しています。

受診時に教えていただきたいこと

  • 処方薬だけでなく、市販の漢方、サプリメント、健康食品
  • いつから、どの症状を目的に飲んでいるか
  • むくみ、血圧、筋けいれん、腹痛、下痢、便秘、空咳などの変化
  • 妊娠・授乳、腎臓・肝臓・心臓の病気、利尿薬の使用

まとめ

漢方薬は、不安や不眠を一つの症状として切り取るより、身体症状や体力を含む「まとまり」から選びます。合う処方を探すことと同じくらい、効かなければ見直すこと、生薬の重複を避けること、身体疾患や標準治療を見逃さないことが大切です。

「漢方なら弱いから安心」ではなく、「何を目的に、いつまで試し、何を見て続けるか」を決めて使う。それが安全な漢方治療の基本です。

参考資料

  1. 一般社団法人日本東洋医学会 EBM委員会. 漢方製剤の記載を含む診療ガイドライン(KCPG)
  2. 一般社団法人日本東洋医学会 EBM委員会. 漢方とエビデンス
  3. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 医療用医薬品添付文書情報(各処方の個別記事から参照できます)。

本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断や処方に代わるものではありません。処方薬・市販薬を自己判断で開始、増量、減量、中止しないでください。

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