「薬を飲み始めてから、体重が増えました」
「精神的には落ち着いている。でも、このまま続けて大丈夫でしょうか」
抗精神病薬の治療では、こころの症状が改善する一方で、食欲や体重、血糖、脂質の変化が問題になることがあります。
体重が増えると、「食べる量を我慢できない自分が悪い」と考える方もいます。しかし、抗精神病薬による体重増加は、単なる意思の弱さではありません。食欲、満腹感、エネルギーの使われ方、眠気や活動量などに薬が影響し、その結果として起こることがあります。
2026年、JAMA Psychiatryに、この問題を考えるうえで重要な二つの研究が発表されました。一つは、抗精神病薬を使う統合失調症スペクトラム症の方に対し、どの薬が体重減少と関連したかを比較した研究。もう一つは、大うつ病性障害、双極症、統合失調症のある方で、GLP-1受容体作動薬の開始が死亡や心血管イベントの少なさと関連したかを調べた研究です。
体重増加は、「治療とは別の問題」ではありません
抗精神病薬は、幻覚や妄想、強い不安や焦燥、躁状態、うつ病の増強療法など、さまざまな場面で使われます。病状を安定させ、生活や仕事を取り戻すために欠かせないことがあります。
一方で、体重増加、血糖上昇、脂質異常などが起これば、将来の糖尿病や心血管疾患のリスクだけでなく、今の生活にも影響します。服が合わなくなる。身体が重くて動きにくい。検査値が怖くなる。外出を避ける。体重を理由に薬をやめたくなる。
この時、精神症状が落ち着いているからといって、治療がすべてうまくいっているとは言い切れません。
こころの安定と身体の健康は、どちらか一方を選ぶものではありません。薬で得られている効果を守りながら、身体への負担を早く見つけ、減らすことまでが治療です。
二つの研究は、違う問いに答えています
今回の二つの論文は、どちらもGLP-1受容体作動薬を含みますが、研究の目的も方法も違います。
- 体重への効果を比べた研究95件の無作為化試験をまとめ、抗精神病薬を使用している統合失調症スペクトラム症の方で、体重を減らすための追加薬を比較したネットワークメタ解析です。
- 死亡・心血管イベントとの関連を調べた研究150万人を超える診療データを用い、GLP-1受容体作動薬を開始した方とSGLT2阻害薬を開始した方を比べた観察研究です。
前者は無作為化試験をまとめたため、体重への治療効果を考える根拠として比較的強い研究です。後者は非常に大規模ですが、薬を無作為に割り付けた試験ではありません。そのため、死亡率が低かったという結果を、そのまま「GLP-1受容体作動薬が寿命を延ばした」と因果関係として断定することはできません。
体重減少が大きかった薬は何か
体重への効果を調べた論文では、95試験、計5898人、39種類の薬物介入が比較されました。対象は、抗精神病薬を使用している統合失調症スペクトラム症の方です。
プラセボまたは通常ケアと比べた平均体重の差は、次のように報告されました。
- セマグルチド平均10.98kgの減少。95%信頼区間は8.62~13.33kgの減少で、3試験が含まれました。
- リラグルチド平均5.43kgの減少。2試験が含まれました。
- トピラマート平均3.95kgの減少。5試験が含まれました。
- メトホルミン平均3.86kgの減少。16試験が含まれ、GLP-1受容体作動薬より研究の蓄積が多い薬でした。
- エキセナチド平均2.97kgの減少。3試験が含まれました。
セマグルチドの数字は目を引きます。しかし、ここで「約11kgは誰でも減る」と読むのは適切ではありません。平均値であり、もとの体重、使用した抗精神病薬、投与期間、併存疾患などによって結果は変わります。さらに、セマグルチドは3試験、リラグルチドは2試験で、研究数はまだ多くありません。
ネットワークメタ解析では、薬同士を直接比較していない試験も、共通の比較対象を介して間接的に比べます。多くの治療を一度に見渡せる一方、研究期間や対象者の違いが結果へ影響する可能性があります。
新しい薬だけが選択肢ではありません
GLP-1受容体作動薬が注目されますが、今回の結果で、メトホルミンにも中等度の確実性で体重減少との関連が示されました。セマグルチドほど平均減少量は大きくありませんでしたが、16試験が含まれ、研究の蓄積はより多くあります。
トピラマートも体重減少と関連しましたが、認知面の副作用、しびれ、腎結石などを考える必要があります。メトホルミンには消化器症状やビタミンB12低下など、GLP-1受容体作動薬には吐き気、嘔吐、下痢、便秘、胆嚢・膵臓に関する注意などがあります。
体重を減らす数字だけで薬を選ぶのではなく、その方の身体状態、併用薬、得られている精神症状への効果、続けやすさを一緒に考えます。
死亡率と心血管イベントを調べた研究
もう一つの論文は、多国籍の電子診療記録データベースを使ったターゲット試験エミュレーションです。実際の診療データから、無作為化試験に近い比較を目指す研究方法です。
GLP-1受容体作動薬を新たに開始した方と、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬を新たに開始した方を、背景が近くなるようにマッチングしました。4年解析では152万8230人、76万4115組が比較され、そのうち19万5184組に、研究上の「重症精神疾患」がありました。
ここでいう重症精神疾患は、現在の症状が必ず重いという意味ではありません。この研究では、大うつ病性障害、双極症、統合失調症を含む診断群をまとめるための用語として使われています。
この群の4年間の死亡は、GLP-1受容体作動薬を開始した群で4.91%、SGLT2阻害薬を開始した群で6.45%でした。ハザード比は0.76、絶対差は1.54ポイントでした。
また、2型糖尿病がある重症精神疾患の方で、セマグルチドの開始はSGLT2阻害薬の開始と比べ、心筋梗塞、脳卒中、心不全などを含む心血管イベントの少なさと関連していました。
大規模でも、観察研究には残る限界があります
研究者は年齢、病気、治療歴などをそろえるために傾向スコアマッチングを行い、複数の感度分析も実施しています。それでも、診療データだけでは十分に分からない要素があります。
- 実際にどの程度薬を使い続けたか――処方記録があっても、服薬・注射の継続状況を完全には把握できません。
- 体重や生活がどう変わったか――食事、運動、喫煙、飲酒、体重減少の程度が結果に影響した可能性があります。
- 医療へのつながり方の違い――GLP-1受容体作動薬を選択できた方は、受診頻度、経済状況、治療への参加のしやすさなどが異なった可能性があります。
- 処方理由の違い――医師がどちらの薬を選んだかには、検査値や併存疾患など、データで調整しきれない理由が含まれます。
したがって、この研究は「期待できる重要な信号」です。しかし、因果関係を確かめるには、重い精神疾患のある方を対象とした前向きな無作為化試験が必要です。論文の著者も、その必要性を明記しています。
GLP-1受容体作動薬とは
GLP-1は、食事の後に腸などから分泌されるホルモンです。血糖に応じてインスリン分泌を助け、胃から食べ物が送り出される速度や食欲、満腹感にも関わります。
GLP-1受容体作動薬は、この働きを利用する薬です。セマグルチド、リラグルチド、エキセナチドなどがあり、製剤ごとに国内で承認されている病気や用法が異なります。チルゼパチドはGIPとGLP-1の両方の受容体へ作用する薬です。
単なる「食欲を我慢させる薬」ではありません。一方で、精神症状そのものを治す抗精神病薬でもありません。抗精神病薬で得られている効果を置き換える薬ではなく、条件を満たす場合に身体面の治療として検討されるものです。
日本では、抗精神病薬による体重増加だけで使える薬ではありません
ここは、研究結果と国内の実際を分ける必要があります。
日本では、セマグルチドを含む製剤は、2型糖尿病や肥満症など、製剤ごとに承認された適応と使用条件があります。精神科の薬で体重が増えたという理由だけで、自動的に保険診療で処方できるわけではありません。
肥満症治療薬については、肥満に関連する健康障害、これまでの食事・運動療法、BMI、処方する医師・施設の要件などを確認し、適正使用の条件を満たす必要があります。見た目を整えることだけを目的とした使用や、承認された対象から外れる使用とは分けて考えなければなりません。
海外の研究で効果が示されたことと、日本でその方に処方できることは同じではありません。対象になる可能性がある場合は、糖尿病・内分泌・肥満症を診る医療機関と連携して判断します。
体重が増えてから、薬を足すことだけが対策ではありません
代謝への対応は、GLP-1受容体作動薬を検討するところから始まるのではありません。抗精神病薬を始める前、または変更する時点から、体重や検査値を確認しておくことが大切です。
- 変化を早く見つける体重、BMI、腹囲、血圧、血糖・HbA1c、脂質などを、治療開始前と開始後で比べます。
- 薬の効果と必要性を確認するどの症状に効いているか、現在の量が必要か、眠気や食欲の変化がないかを整理します。
- 変更の利益と危険を比べる代謝への影響が比較的小さい薬へ変える選択肢もありますが、精神症状の再燃や新しい副作用の可能性があります。
- 生活を「本人の責任」にしない食事の調整、睡眠、活動量を考えますが、症状や眠気、経済状況、働き方によって難しさがあることも含めて支援します。
- 必要なら他科と連携する高血糖、脂質異常、高血圧、肥満症などがあれば、内科などで評価し、精神科の治療と同時に進めます。
体重が気になっても、抗精神病薬を急にやめないでください
体重増加は軽く扱えない副作用です。だからこそ、我慢して黙っている必要はありません。
ただし、抗精神病薬を自己判断で急に減らしたり中止したりすると、不眠、焦燥、気分の変化、幻覚・妄想などが再燃することがあります。体重を戻そうとして精神状態が大きく崩れれば、食事、活動、通院そのものが難しくなり、身体面にも不利益が生じます。
「薬を続けるか、太るか」という二択ではありません。
現在の薬で守れているものを確認しながら、量、薬の種類、生活支援、身体科との連携、追加治療を組み合わせて、負担を減らす道を探します。
診察で相談してほしい変化
次のような変化がある時は、次回の診察で具体的に伝えてください。
- 薬を始めてから、短い期間で体重が増えた
- 食欲が強くなり、自分では止めにくいと感じる
- 眠気やだるさで、活動量が大きく下がった
- 健診で血糖、HbA1c、脂質、血圧を指摘された
- いびき、日中の強い眠気、睡眠時無呼吸を指摘された
- 体重のために薬を減らしたり、飲まない日を作ったりしている
- 体重増加によって、外出や人との交流を避けるようになった
「何kgになったら相談する」という線を待つ必要はありません。治療開始前からどのくらい変わったか、どの時期から変化したかが重要です。
まとめ
2026年のネットワークメタ解析では、抗精神病薬を使用する統合失調症スペクトラム症の方の体重減少に、セマグルチド、リラグルチド、トピラマート、メトホルミン、エキセナチドが関連しました。中でもセマグルチドの平均体重減少は大きい結果でしたが、含まれた試験は3件で、誰にでも同じ効果が得られるわけではありません。
もう一つの大規模観察研究では、大うつ病性障害、双極症、統合失調症のある方で、GLP-1受容体作動薬の開始は、SGLT2阻害薬の開始と比べて死亡や心血管イベントの少なさと関連しました。ただし、観察研究であるため、「GLP-1受容体作動薬が死亡を減らした」と断定することはできません。
それでも、二つの研究が共通して伝えていることがあります。
体重増加を本人の努力不足にせず、かといって新しい薬へすぐ飛びつかず、まず変化を測り、現在の治療の利益と負担を整理する。そのうえで、必要なら精神科と身体科が連携して選択肢を考えることが大切です。
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論文情報・参考資料
- Stogios N, Agarwal SM, Maksyutynska K, et al. Pharmacological Interventions for Weight Reduction in Patients With Schizophrenia Treated With Antipsychotics: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. JAMA Psychiatry. 2026;83(9):912-920. doi:10.1001/jamapsychiatry.2026.1814. PubMed
- McIntyre RS, Zhang-James Y, Kwan ATH. Glucagon-Like Peptide 1 Receptor Agonists, Mortality, and Cardiovascular Outcomes in Serious Mental Illness. JAMA Psychiatry. Published online August 26, 2026. doi:10.1001/jamapsychiatry.2026.2574. PubMed
- 日本糖尿病学会ほか. GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に関するお知らせ. 医薬品医療機器総合機構. PMDA資料
本記事は2026年9月時点で確認できる論文と国内の公的資料をもとにした一般的な解説です。研究結果は、個別の診断や処方を決めるものではありません。抗精神病薬や糖尿病・肥満症治療薬を自己判断で開始・変更・中止せず、主治医へ相談してください。

