DIRECTOR'S JOURNAL

ベルソムラは、「自然に近い睡眠薬」なのか

コラム

「ベルソムラは、自然に近い眠りを作る薬なので安全ですか」

ベルソムラは、スボレキサントを成分とするオレキシン受容体拮抗薬です。日本では2014年に承認され、この系統の睡眠薬として長い使用経験があります。

覚醒を保つオレキシンの働きを弱めるため、GABA作動薬とは仕組みが異なります。ただし、「自然に近い」という説明から、副作用がほとんどない薬だと受け取るのは適切ではありません。翌朝の眠気、悪夢、睡眠時麻痺、寝ぼけた行動に注意が必要です。

ベルソムラは、長い使用経験があるオレキシン受容体拮抗薬です。合う方では寝つきと睡眠維持を助けますが、夢の鮮明さや翌朝の眠気が負担になる方もいます。「眠れた」と「休めた」を分けて見ます。

覚醒のスイッチを維持するオレキシンを遮断します

スボレキサントは、オレキシン1受容体と2受容体を遮断します。脳の覚醒系への信号を弱め、睡眠へ移りやすくします。

睡眠構築への影響はGABA作動薬と異なりますが、薬による鎮静がないわけではありません。服用後に十分な睡眠時間を確保し、翌朝の反応を確認します。

国内適応は不眠症、成人20mg、高齢者15mgです

国内添付文書では、成人は1日1回20mg、高齢者は15mgを就寝直前に服用します。10mg錠は、中程度のCYP3A阻害薬と併用する場合などに減量を考えるための規格です。

  1. 10mg通常開始量ではありません。相互作用や副作用を踏まえて減量を考慮する場合に使います。
  2. 15mg高齢者の通常量です。転倒、ふらつき、夜間の排尿も含めて見ます。
  3. 20mg非高齢成人の通常量です。必要以上に増減せず、効果と副作用を評価します。

使用経験が長いことは、実臨床での強みです

ベルソムラは、4剤の中で国内使用期間が最も長く、再審査も終了しています。臨床試験だけでなく、高齢者、身体疾患のある方、多剤併用の方で使われた経験が蓄積しています。

ただし、古くから使われていることが全員に合うことを意味するわけではありません。新しい相互作用情報や安全性情報で添付文書は改訂されます。長く使われている薬ほど、現在の添付文書を確認することが大切です。

寝つきと睡眠維持の改善が確認されています

第III相試験では、成人20mg・高齢者15mgの用量で、入眠までの時間と中途覚醒時間がプラセボより改善しました。睡眠構築を解析した研究では、REM睡眠とノンREM睡眠を保ちながら総睡眠時間を増やす傾向が示されています。

「よく夢を見るようになった」と話す方がいるのは、薬の作用と睡眠構築の変化の両方が関係している可能性があります。夢が増えたこと自体より、怖くて眠れない、起床後もつらい、異常行動を伴うかを確認します。

半減期は約10~12時間、年齢や併用薬で延長します

健康成人の試験で半減期は約10~12.5時間でした。健康高齢者の反復投与試験では約18.4時間と延長しており、高齢者で15mgが通常量とされる理由の一つです。

服用翌朝に眠気、注意力、集中力、反射運動能力が低下することがあります。運転や危険作業がある方では、本人が「大丈夫」と感じても慎重な判断が必要です。

悪夢と睡眠時随伴症は、我慢せず共有してください

  • 悪夢・異常な夢:鮮明な夢や怖い夢が続き、睡眠の満足感を下げることがあります。
  • 睡眠時麻痺・幻覚:金縛りや寝入りばなの幻覚様体験が出ることがあります。
  • 夢遊症などの睡眠時随伴症:十分に覚醒しないまま歩く、食べる、行動する可能性があります。
  • 傾眠・ふらつき:翌朝の転倒、通勤、仕事への影響を確認します。
  • 脱力発作様症状:まれでも、感情に伴う急な脱力などがあれば早めに共有します。

クラリスロマイシンなど、併用できない薬があります

スボレキサントは主にCYP3Aで代謝されます。イトラコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、パキロビッド、ゾコーバなど、添付文書に定められた強いCYP3A阻害薬とは併用できません。

ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾールなど中程度の阻害薬と併用する場合は、10mgへの減量を考慮します。飲酒や他の鎮静薬でも作用が強まる可能性があります。

食事と同時・食直後は避けます

食後では薬の効き始めが遅れることがあります。夕食が遅い方は、薬が合わないと決める前に、食事と服用の時間関係を確認します。

服用後に一時的に起きて仕事や運転をする可能性がある時は服用しません。夜勤や不規則勤務では、時計上の時刻ではなく、実際にまとまった睡眠を取れる直前かを考えます。

当院では、ベルソムラをどう見ているか

ベルソムラは、オレキシン受容体拮抗薬の中では長い使用経験があり、初めてこの系統を使う時にも、副作用の見通しを立てやすい薬という印象です。効き方は「飲んだら急に落ちる」というより、気づくと覚醒が下がっていると表現する方がいます。

一方、以前から即効性の強い睡眠薬を使っていた方には、「眠くなった感じがしない」「弱い」と受け取られることがあります。しかし、服用した実感が弱くても、睡眠日誌では寝つきや中途覚醒が改善している場合があります。体感と睡眠の変化を分けて見ます。

ベルソムラで特徴的に聞くのは、夢が鮮明になる、悪夢が増える、金縛りに似た感覚が出るという訴えです。夢が増えただけで中止する必要はありませんが、眠るのが怖くなる、起床後まで気分が悪い、本人が覚えていない行動を伴う場合は、合っていない可能性を考えます。

成人20mg・高齢者15mgという用量設定は明確ですが、翌朝の眠気や併用薬によっては調整が必要です。長く使われているから安心と決めず、同時に、古い薬だから劣るとも考えず、その人の睡眠と翌日の生活に合うかで判断します。

どのような時に選択肢になりやすいか

EXPERIENCE

長い使用実績を重視する

新薬だけでなく、国内で蓄積した安全性情報も含めて選びたい時に考えます。

SLEEP

寝つきと途中覚醒がある

夜のどこで困っているかを睡眠日誌で確認します。

CAUTION

悪夢が大きな負担になる

夢の鮮明さや睡眠時の異常行動が続く時は、別の選択肢を検討します。

INTERACTION

併用薬が多い

CYP3A阻害薬との禁忌・減量を、毎回の処方で確認します。

まとめ

ベルソムラは、スボレキサントを成分とするオレキシン受容体拮抗薬です。国内適応は不眠症で、成人20mg、高齢者15mgを就寝直前に服用します。

長い使用経験は大きな利点ですが、翌朝の眠気、悪夢、睡眠時麻痺、睡眠時随伴症、相互作用への注意は必要です。「自然に近いから安心」で終わらせず、自分の睡眠と生活に合うかを確認します。

参考資料

  1. PMDA. ベルソムラ錠10mg/15mg/20mg 添付文書(2026年8月改訂). PMDA
  2. Herring WJ, et al. Suvorexant in patients with insomnia: pooled phase-3 data. Biol Psychiatry. 2016. PubMed
  3. Snyder E, et al. Effects of suvorexant on sleep architecture. Sleep Med. 2016. PubMed

本記事は一般的な医療情報です。服用中の薬を自己判断で増減・中止せず、処方医または薬剤師にご相談ください。

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