「ボルズィは、半減期が短いから翌朝に残らない睡眠薬ですか」
ボルズィは、ボルノレキサントを成分とするオレキシン受容体拮抗薬です。日本で開発され、2025年11月に販売が始まりました。覚醒を保つオレキシンの働きを弱め、眠りへ移りやすくします。
大きな特徴は、添付文書上の消失半減期が約2時間と短いことです。翌朝への持ち越しを抑えるよう設計された薬ですが、短い半減期と「誰にも眠気が残らない」は同じではありません。
覚醒を維持するオレキシンの信号を弱めます
オレキシンは、起きて活動する状態を保つ神経伝達物質です。ボルズィはオレキシン1受容体と2受容体の両方を遮断することで、強い覚醒信号を弱めます。
ベンゾジアゼピン系薬やZ薬のようにGABAの働きを直接強める薬ではありません。そのため薬理学的な眠らせ方は異なりますが、傾眠、注意力低下、睡眠時麻痺、悪夢が起こらないという意味ではありません。
国内の適応は不眠症、通常5mg、最大10mgです
国内で承認された効能・効果は不眠症です。成人は1日1回5mgを就寝直前に服用し、症状により増減しますが、10mgを超えません。2.5mg、5mg、10mgの錠剤があります。
- 2.5mg中程度のCYP3A阻害薬を併用する場合や中等度肝機能障害では、添付文書上2.5mgです。それ以外に2.5mgを選ぶ場合は、国内の通常用量を下回る使い方であることを区別します。
- 5mg国内の通常量です。まず寝つき、途中覚醒、翌朝の眠気を確認します。
- 10mg効果不十分な場合の最大量です。増量で傾眠などの副作用が増える可能性があるため、全員に必要な量ではありません。
約2時間という短い半減期を、どう受け止めるか
健康成人男性が10mgを空腹時に単回服用した試験で、最高血中濃度に達する時間の中央値は0.5時間、半減期は約2.1時間でした。7日間の反復投与でも半減期は約2時間でした。
これは、デエビゴ、ベルソムラ、クービビックと比べても短い数値です。早朝から仕事がある方、翌日の眠気がこれまで問題になった方にとって、検討する理由になります。
一方、眠気は血中濃度だけでは決まりません。睡眠不足、短い睡眠時間、飲酒、他の鎮静薬、体質が重なると翌朝に影響します。国内第III相試験では日中の主観的眠気や認知機能検査への明確な影響は示されませんでしたが、個人の安全を保証する結果ではありません。
ボルズィでは、自動車の運転は一律に禁止されていません
ボルズィは、自動車の運転そのものが「禁忌」ではありません。また、電子添文では、服用中のすべての方に一律に運転を禁止する記載ではなく、患者さんの状態を十分に把握したうえで、運転や危険を伴う機械操作の適否を医師が慎重に判断するよう求めています。
ただし、不眠そのものや薬の影響によって、眠気、注意力・集中力・反射運動能力の低下が起こることがあります。眠気がある場合は、自動車の運転や危険を伴う機械操作をしてはいけません。飲み始め、増量した時、睡眠時間が十分に取れなかった時、飲酒やほかの鎮静作用のある薬が重なった時は、とくに慎重な確認が必要です。
寝つきと夜間の覚醒の両方を評価します
国内第III相試験では、5mgと10mgのいずれも睡眠潜時や中途覚醒時間などの睡眠指標を改善しました。52週間の長期投与試験も行われています。
ただし、「飲めばすぐ眠れる」という体感は人によって違います。食事と同時または食直後に服用すると、最高血中濃度に達する時刻が約1時間遅れ、入眠効果も遅れる可能性があります。
主な副作用は傾眠です
国内第III相試験で、副作用は5mg群5.1%、10mg群6.6%、傾眠はそれぞれ3.1%、3.6%でした。長期投与試験では傾眠が5mg群3.8%、10mg群11.5%で、用量による違いも見られました。
- 傾眠・倦怠感:翌朝の起床、通勤、運転に影響がないか確認します。
- 悪夢・睡眠時麻痺:怖い夢、金縛り、寝入りばなの奇妙な体験があれば共有します。
- めまい:夜間に起きた時や朝のふらつきに注意します。
- 睡眠時間不足:薬の副作用と睡眠不足が重なると、注意力が低下します。
強いCYP3A阻害薬とは併用できません
ボルノレキサントは主にCYP3A4で代謝されます。イトラコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビルを含む薬、ゾコーバなど、添付文書に定められた強い阻害薬とは併用できません。
フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミルなど中程度の阻害薬との併用時は2.5mgとします。グレープフルーツジュース、カルバマゼピン、フェニトイン、他の鎮静薬、飲酒にも注意が必要です。
新しい薬であることは、利点でも限界でもあります
ボルズィは、日本人を中心とした国内試験で有効性と安全性が確認されました。短い半減期という明確な特徴があります。
一方、販売開始からの期間はまだ短く、ベルソムラやデエビゴほど多様な患者さんでの長期的な実臨床経験は蓄積していません。発売前の試験で分かることと、日常診療で長く使われて分かることは同じではありません。
当院では、ボルズィをどう見ているか
ボルズィは、「眠りを強く引き込む薬」というより、寝入りばなの覚醒を短く下げ、翌朝には引きずりにくくすることを狙った薬という印象です。朝早く起きる必要がある方や、ほかの睡眠薬で午前中まで頭が重かった方では、短い半減期が選択理由になります。
一方、短いことが全員にとって長所とは限りません。寝つきは良くなっても明け方に目が覚める方、睡眠時間をもう少し後半まで支えてほしい方では、物足りなさが出る可能性があります。半減期の短さだけでなく、どの時間帯の不眠に困っているのかを確認します。
5mgで翌朝が軽い方もいれば、10mgでは傾眠が目立つ方もいます。「新しい薬だから優れている」「短いから眠気が残らない」とは考えず、起床時刻、午前中の集中、通勤時の眠気まで記録します。
現時点では、ベルソムラやデエビゴから全員を置き換える薬というより、翌朝への持ち越しが治療の妨げになっていた方へ、新しい調整幅を与える薬と考えています。
どのような時に選択肢になりやすいか
翌朝への持ち越しを避けたい
これまでの睡眠薬で朝の眠気が負担だった方では、短い半減期が選択理由になります。
少量から調整したい
2.5・5・10mgの規格があり、相互作用や肝機能を含めて用量を考えられます。
夜中に活動する可能性がある
服用後に運転、仕事、介護などで起きる可能性がある時は服用しません。
新薬への期待が大きい
短い半減期は重要ですが、必ず効く・必ず残らないという保証ではありません。
まとめ
ボルズィは、ボルノレキサントを成分とするオレキシン受容体拮抗薬です。国内適応は不眠症で、通常5mg、最大10mgを就寝直前に服用します。
約2時間という短い半減期は大きな特徴です。自動車の運転は一律に禁止されていませんが、眠気がある場合は運転できません。夜に眠れたかと、翌朝に安全に動けたかをセットで確認します。
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参考資料
本記事は一般的な医療情報です。服用中の薬を自己判断で増減・中止せず、処方医または薬剤師にご相談ください。

