こころの仕組み23
――「なぜこうなった?」より、「これで何を守っている?」と考えてみる
人の顔色を気にしすぎる。失敗が怖くて、なかなか始められない。頼まれると断れない。何度も確認してしまう。嫌なことがあると、急に全部投げ出したくなる。頭では、「こんなことをしても仕方ない」と分かっている。それでも、なかなか変えられない。そんな時、「自分は意志が弱い」「性格の問題なんだろう」と思ってしまうことがあります。
でも、なかなか手放せない行動には、それなりの理由があることがあります。その行動によって、何かから自分を守れているのかもしれません。
人の顔色を読むことで、守れていたもの
相手が少し黙った。表情が変わった。返信が遅い。すぐ、「何か悪いことをしたかな」と考える。疲れるから、やめたい。でも、やめられない。もしかすると、人の顔色を読むことで、相手が怒る前に気づけたのかもしれません。嫌われる前に合わせられた。関係が悪くなる前に、自分を修正できた。そう考えると、顔色を読むことは、単なる「考えすぎ」ではなく、人との関係を失わないために身につけた方法だったのかもしれません。
だから、「気にしないようにしましょう」だけでは、なかなか手放せません。本人にとっては、気にしない方が怖いからです。
完璧主義も、失敗したいから続けているわけではない
メールを何度も読み直す。資料をいつまでも直す。十分できているのに提出できない。本人も疲れています。それでも、完璧に近づけようとする。なぜでしょう。間違えたくない。注意されたくない。能力が低いと思われたくない。「ちゃんとしている人」でいたい。つまり、完璧主義そのものが問題というより、その奥には、傷つかないための工夫があることがあります。
だから、「70点で出しましょう」と言われても怖い。70点で出すということは、その人にとって、単に手を抜くことではなく、評価される場所に、無防備な自分を出すことだからです。
先延ばしも、「怠け」だけでは説明できないことがある
資格試験の申し込みをしない。転職活動を始めない。大事な連絡を後回しにする。本人は、「やらなきゃ」と思っています。でも、近づけない。ここで、「やる気がないから」と考えるだけでは、少し足りないことがあります。始めたら、結果が出る。応募すれば、落ちるかもしれない。本気で勉強して不合格なら、「自分には能力がない」と感じるかもしれない。
始めなければ、まだ、「本気を出せばできたかもしれない自分」を残しておけます。すると先延ばしは、時間管理の問題であると同時に、自分の価値が傷つく瞬間を先延ばしする方法になっていることがあります。
「何でも一人でやる」にも、理由がある
人に頼れない。相談できない。仕事を抱え込む。周囲からは、「もっと頼ればいいのに」と言われる。本人も、それは分かっている。でも、頼んで断られるくらいなら、自分でやった方がいい。説明して分かってもらえないくらいなら、自分でやった方がいい。期待してがっかりするくらいなら、最初から期待しない方がいい。
そうやって、一人でやることが、失望しないための方法になっていることがあります。だから、「人を頼りましょう」だけでは変わりません。頼ることそのものより、頼った後に何が起きると思っているのかを見る必要があります。
「嫌われたくない」は、かなり強い理由になる
頼まれたら断れない。本当は嫌なのに笑ってしまう。相手に合わせる。自分の意見を言わない。これも、「もっと自分を大切に」と言われてすぐ変えられるものではありません。断ったら、相手が嫌な顔をするかもしれない。距離を置かれるかもしれない。「感じの悪い人」と思われるかもしれない。本人にとって、その不安が大きければ、多少自分がしんどくても、合わせた方が安全です。
つまり、自分を削ってでも、関係を守る方を選んできたのかもしれません。
だから、「やめた方がいい」と分かっていてもやめられない
少し不思議ですが、人を苦しめている行動ほど、その瞬間には本人を助けていることがあります。何度も確認すると、一瞬安心する。人に合わせると、その場の緊張が下がる。先延ばしすると、今だけは失敗を考えなくて済む。仕事を抱え込むと、人に頼る不安を感じなくて済む。つまり、短期的にはちゃんと役に立っています。
ただ、長く続けると、代償が出てくる。確認が増える。疲れる。自分の意見が分からなくなる。仕事を抱えすぎる。人生の選択肢が狭くなる。その場を守ってくれた方法が、長期的には自分を苦しめる。ここが難しいところです。
変える前に、「なぜ必要だったのか」を知っておく
人の顔色を読む。完璧にする。一人で抱える。避ける。何度も確認する。こうしたものを、すぐに「悪い癖」と呼ばなくてもいいと思います。その人には、それを使うだけの理由があったのかもしれません。昔、怒られることが多かった。失敗を強く責められた。頼っても助けてもらえなかった。弱音を吐く余裕がなかった。
それなら、今の反応ができたことにも筋が通ります。大切なのは、過去を詳しく掘り続けることではありません。ただ、「自分は意味もなくこうなったわけではない」と分かることです。
そして、もう一つだけ考える
「これは何を守っている?」たとえば、断れない。何を守っている?人との関係。嫌われない自分。「いい人」でいること。では、それを守るために、毎回自分が全部引き受ける必要はある?ここで初めて、別の方法を考えられます。
守りたいものまで、捨てなくていい
人に嫌われたくない。それは自然です。失敗したくない。それも自然。認められたい。役に立ちたい。傷つきたくない。どれも、人として普通の気持ちです。変える必要があるのは、それを望むことではなく、それを守る方法が一つしかない状態かもしれません。
「嫌われない」から、「少し嫌われても関係を調整できる」へ
これまで、嫌われないために全部合わせてきた。なら、急に「人の評価なんてどうでもいい」を目指さなくていい。それは難しすぎます。少しだけ変えます。「意見が違っても、必ず関係が終わるわけではない」「断っても、必要なら説明できる」そんな経験を増やす。
「失敗しない」から、「失敗しても戻れる」へ
完璧主義も同じです。失敗を怖がらない人になる必要はありません。むしろ、失敗しても、謝る。直す。相談する。やり直す。ことができる。そう分かれば、失敗をゼロにする必要が少し減ります。失敗しない力より、失敗した後に戻る力を持つ。こちらの方が、ずっと現実的です。
「不安にならない」から、「不安があっても決められる」へ
不安がある。だから確認する。もっと確認する。安心するまで考える。でも、完全には安心できない。それなら、不安をゼロにすることを目標にしなくてもいい。「少し不安だけど、今日はここまでで終わる」「分からない部分は残っているけど、いったん決める」という選択肢を増やす。不安がなくなったから動くのではなく、不安がある自分を連れて動くという方法です。
本当に環境が悪いなら、自分の心だけを変えなくていい
ここは大切です。会社で実際にハラスメントを受けている。明らかに仕事量が多すぎる。暴言を受けている。家庭に現実の危険がある。そんな時まで、「あなたが怖がっている理由を考えましょう」だけではいけません。怖い場所では、怖くなるのが自然です。その場合に必要なのは、自分の考え方を変えることではなく、距離を取る。
誰かに相談する。仕事量を減らす。環境を変える。安全を確保する。ということかもしれません。すべての苦しさを、自分の心の問題にしなくていい。
「できない自分」を責める前に、一つだけ聞いてみる
何かを変えたい。でも変えられない。そんな時、「どうして自分はできないんだろう」と責める代わりに、一度だけ、「これをやめたら、何が怖いんだろう」と聞いてみる。確認をやめたら?断ったら?頼ったら?挑戦したら?休んだら?そこに出てくるものが、今まで守ってきたものなのかもしれません。
自分を変えるというより、守り方を増やしていく
人は、必要だったものを、いきなり捨てるのは難しいものです。だから、今までの方法を禁止しなくてもいい。顔色を読む日もある。慎重に確認する日もある。一人で頑張る時もある。でも、それしかできない状態から、少しずつ、聞いてみる。断ってみる。頼ってみる。間違えてみる。途中で休んでみる。という選択肢を増やす。
それでいいのだと思います。
「なぜこんな自分になったんだろう」の、その先へ
過去を理解すると、少し納得できることがあります。「あの環境なら、人の顔色を読むようになっても不思議ではなかった」「失敗をあれだけ責められたら、完璧になろうとしたのも無理はなかった」それは大切な理解です。でも、そこで終わらなくてもいい。今度は、「この方法は、今の自分にもまだ必要だろうか」と考える。
全部捨てなくていい。必要なところでは使う。でも、もう少し楽な方法があるところでは、そちらも使ってみる。人が変わるというのは、昔の自分を否定することではないのだと思います。むしろ、「あの頃の自分には、この方法が必要だった」と認めた上で、今の自分には別の方法も選ばせてあげること。やめられない自分を責めるより、「これで何を守ってきたんだろう」と考えてみる。
そこから見えるものは、欠点ではなく、これまで自分なりに生き延びるために使ってきた工夫かもしれません。そして今は、その工夫を捨てるのではなく、もう少し自分を消耗させない守り方へ、少しずつ作り替えていく。それくらいが、こころを変えていく時にはちょうどいいのだと思います。
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本記事は一般的な心理教育を目的としたもので、個別の診断や治療に代わるものではありません。こころの反応の意味は、症状、これまでの経験、現在の環境によって異なります。強い苦痛や生活への支障、安全上の心配がある場合は、医療機関や適切な相談先へご相談ください。

