「毎日、何時間眠れば健康にいいのでしょうか」
「6時間では足りませんか」
「スマートウォッチでは7時間眠れていないのですが、大丈夫でしょうか」
睡眠について調べると、「成人は7〜9時間」「最低でも6時間」「必要な睡眠時間には個人差がある」と、少しずつ異なる数字が出てきます。
数字が気になり始めると、朝起きて最初に端末を確認し、「今日は6時間42分しか眠れていない」と不安になることもあります。
2026年に睡眠医学の専門誌Sleepに発表された研究では、自己申告による睡眠時間と、手首の機器で測定した睡眠時間の両方を用いて、睡眠時間と健康との関係が調べられました。
約7万人を8年間追跡した研究
研究には、UKバイオバンクに登録された40〜69歳の成人が参加しました。参加者は自分の睡眠時間を回答するとともに、手首に加速度計を7日間装着しました。
その後、平均約8年間にわたり、総死亡、心血管疾患、2型糖尿病、認知症、うつ病との関連が調べられました。解析対象は項目によって約6万9千人から7万7千人です。
研究では、睡眠時間の測り方として、次の三つが比較されています。
- 本人が回答した睡眠時間普段、自分がどのくらい眠っていると思うかという自己申告です。
- 睡眠時間帯の長さ眠り始めから最後に目覚めるまでの時間帯です。夜中に目覚めていた時間も含まれます。
- 実際に眠っていたと推定される時間手首の動きなどから、睡眠中だったと機器が推定した合計時間です。
研究で健康リスクが低かった睡眠時間
自己申告でも機器による測定でも、睡眠時間と健康リスクの関係には、おおむね似た傾向が認められました。
健康上のリスクが最も低いと推定された睡眠時間は、測定方法によって少し異なります。
- 自己申告では約7.2時間
- 睡眠時間帯の長さでは約7.7時間
- 実際に眠っていたと推定された時間では約6.8〜9.3時間
研究者らは、これらの結果について、成人では1晩に7〜9時間という現在の睡眠時間の目安を、おおむね支持するものとしています。
「7時間眠れば死亡リスクが30%下がる」とは限らない
ここは、研究結果を読むうえで特に注意が必要です。
今回の研究は、研究者が参加者の睡眠時間を変更して結果を比較した実験ではありません。もともとの睡眠時間と、その後の健康状態との関連を観察した研究です。
短時間睡眠の人には、長時間労働、強いストレス、生活習慣、身体疾患など、別の要因が重なっている可能性があります。反対に、健康状態が悪いために睡眠が短くなっていた可能性もあります。
統計的な調整は行われていますが、すべての影響を完全に取り除くことはできません。
この研究から言えるのは、短すぎる睡眠より、十分な睡眠時間を確保できている人の方が、長期的な健康状態がよい傾向にあったというところまでです。
自分で感じる睡眠時間と、機器の数字は違う
「自分では7時間眠ったと思っていたのに、スマートウォッチでは6時間と表示された」という違いは珍しくありません。
自己申告の睡眠時間には、寝床にいた時間や、途中で目が覚めていた時間が含まれることがあります。一方、手首に装着する機器は、身体の動きなどから睡眠を推定します。
ただし、一般的なウェアラブル端末は脳波を直接測定しているわけではありません。静かに横になっている時間を睡眠と判定したり、眠っている時の動きを覚醒と判定したりする場合もあります。
今回の研究で、測定方法が異なっても健康との関係が大きく変わらなかったことは、自己申告にも機器にも、それぞれ参考になる情報があることを示しています。
端末の数字は日々の傾向を見るために使い、1日ごとの数分、数十分の違いまでを健康の合否判定に使わない方がよいでしょう。
日本の目安「6時間以上」と矛盾するのか
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人の適正な睡眠時間はおおよそ6〜8時間とされ、少なくとも6時間以上を確保するよう勧められています。
一方、海外の共同声明では7〜9時間を中心としながら、個人によっては6時間程度から10時間程度まで許容されるとされています。
これは、今回の研究結果と大きく矛盾するものではありません。必要な睡眠時間には、年齢、体質、日中の活動量、仕事の負担、季節、身体やこころの状態による個人差があるためです。
現実的には、慢性的に6時間を下回っていないかを確認し、多くの成人では7〜9時間を一つの目安にしながら、日中の状態も一緒に見るという理解がよいと思います。
長く眠れば眠るほど健康によいわけでもない
今回の研究では、睡眠時間が短い側だけでなく、非常に長い側でも、一部の健康リスクが高くなる傾向が示されました。うつ病の発症については、短い側と長い側の両方でリスクが高くなるU字型の関係が認められています。
ただし、長く眠ること自体が病気を引き起こすと決めることはできません。
長い睡眠の背景には、うつ状態、身体疾患、睡眠時無呼吸症候群、活動量の低下、服用している薬、それまでの睡眠不足、体質的に長い睡眠を必要とすることなどが隠れている場合があります。
「9時間眠ってしまったから健康に悪い」と考え、無理に睡眠時間を削る必要はありません。一方、以前より明らかに睡眠時間が長くなり、日中も眠い、意欲が出ない、身体が重いといった変化が続く場合は、背景にある原因を確認した方がよいことがあります。
自分に必要な睡眠時間は、日中の状態から考える
自分にとって睡眠が足りているかは、時計の数字だけでは判断できません。次のような状態が続いていないかも確認します。
- 朝、起きることがかなり苦痛
- 会議中や運転中を含め、日中に強い眠気がある
- 集中力や判断力が落ち、仕事上のミスが増えた
- イライラしやすくなった
- 休日に平日より何時間も長く眠る
- 睡眠時間は確保しているのに、休んだ感じがしない
こうした状態がある場合、単純に睡眠時間が不足していることもあります。一方、十分な時間を確保しても休養感がない場合には、睡眠の質を妨げる原因がないかを考える必要があります。
眠れない時に「7時間眠ろう」と頑張りすぎない
健康のために「今夜は絶対に7時間眠らなければ」と考えると、睡眠時間そのものが新しいストレスになることがあります。
時計を見て「あと6時間しかない」と焦る。早く眠ろうとして身体に力が入る。さらに眠れなくなる。そして翌朝、「7時間眠れなかったから今日はうまく働けない」と不安になる。
睡眠は、自分の意思だけで完全に操作できるものではありません。眠ることを頑張るより、眠りやすい条件を整えます。
- 起床時刻を大きくずらさない休日も含め、起きる時刻の差を小さくすると、体内時計を保ちやすくなります。
- 朝に光を浴びる起床後の光は、睡眠と覚醒のリズムを整える手がかりになります。
- 夕方以降のカフェインを見直すコーヒー、緑茶、エナジードリンクなどの影響が夜まで残ることがあります。
- 飲酒を睡眠薬代わりにしない寝つきが早くなっても、途中で目覚めやすくなり、睡眠の質が下がる場合があります。
- 眠るための時間を生活の中に確保する睡眠不足の背景が長時間労働や帰宅時間にある場合、寝具だけでなく働き方の調整も必要です。
睡眠の変化は、こころの不調のサインになる
今回の研究では、睡眠時間と、その後のうつ病の発症にも関連が認められました。ただし、睡眠時間だけでうつ病を判断することはできません。
大切なのは、その人にとっての変化です。以前は眠れていたのに何週間も寝つけない、夜中や早朝に目が覚めるようになった、反対に眠っても眠っても足りないという変化に加えて、次の状態が続く場合はご相談ください。
- 気分の落ち込み
- 以前楽しめていたことへの興味の低下
- 強い疲労感や集中力の低下
- 食欲の変化
- 自分を責め続けること
- 仕事や家事への影響
また、強いいびき、睡眠中の呼吸停止、朝の頭痛、日中の耐え難い眠気などがある場合には、睡眠時無呼吸症候群などの確認が必要になることがあります。
「正しい睡眠時間」より、回復できる睡眠を
今回の研究は、成人の睡眠時間として7〜9時間という目安を、おおむね支持する結果でした。しかし、その数字を全員にそのまま当てはめることはできません。
7時間2分なら健康で、6時間58分なら不健康になるわけではありません。
まず、睡眠時間が慢性的に6時間を下回っていないかを確認する。可能であれば、7〜9時間程度の睡眠機会を確保してみる。そのうえで、日中の眠気、集中力、気分、睡眠による休養感を見ます。
スマートウォッチの数字は参考にしても、数字に自分の健康をすべて判定させないことも大切です。
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参考文献
- Chaput JP, Biswas RK, Ahmadi M, et al. Dose-Response Associations Between Sleep Duration and Health Outcomes in Adults: Comparison Between Self-Reported and Device-Based Measures. Sleep. 2026;zsag193. PubMed
- 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023. PDF
本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療を目的とするものではありません。

