こころの仕組み11
「何もする気になれません」
「仕事に行っても、以前のようにやる気が出ません」
「休みの日も、何かしたいと思わないんです」
こうした状態が続くと、「怠けているのでは」「甘えているだけでは」「もっと頑張らないと」と、自分を責めやすくなります。
周囲から「気分転換したら」「とりあえず動けば」と言われることもあります。間違った助言ではありませんが、本人には届かないことがあります。
同じ「意欲がない」でも、中で起きていることは違う
意欲がわかない状態は、よく「やる気の問題」とひとまとめにされます。しかし、実際にはいくつかの状態があります。
- 動くための余力が残っていない睡眠不足や疲労、仕事量の多さなどにより、やる気を出すための燃料そのものが不足している状態です。
- やりたいけれど、始めるところで止まる何をするか決める、手順を分ける、最初の一歩へ移るところに大きな負担があります。
- 行動の先に報われる感じがない努力しても評価されない、頑張るほど仕事が増えるといった経験から、「やっても意味がない」と学習していることがあります。
- 失敗や否定を避けるために動けない始める前から失敗を予測し、傷つかないために着手を避けている状態です。
- 興味や喜びを感じる力が落ちている以前好きだったことにも関心が向かず、何をしても楽しそうに思えない状態です。抑うつ状態で見られることがあります。
外から見ると、どれも「動かない」という同じ姿に見えます。しかし、中で起きていることが違えば、必要な対応も変わります。「意欲がない」という一言だけで、自分の性格を決めない方がよいのです。
頑張っても報われない経験が、意欲を削ることがある
以前は仕事を頑張れていた人でも、失敗や人間関係のストレスが続くと、少しずつ意欲が落ちることがあります。
何をしても注意される。努力しても評価されない。頑張った結果、さらに仕事が増える。こうした経験が重なると、頭は「頑張ってもあまりよいことがない」「動くとまた傷つくかもしれない」と学習します。
これは単に根性がなくなったのではなく、行動の先にある「報われる感じ」が弱くなっているのかもしれません。
この場合に必要なのは、本人をさらに励ますことだけではありません。仕事量や評価のされ方、役割の偏りなど、意欲を削り続けている環境も確認する必要があります。
やりたいのに始められない時は、最初の一歩を小さくする
「勉強したい」「部屋を片付けたい」「転職活動を進めたい」と思っているのに、気づくと何時間もスマートフォンを見ている。そして夜になって「今日も何もしなかった」と落ち込む人がいます。
この場合、問題はやりたい気持ちがないことではなく、「やりたい」を「今これをする」に変えるところで止まっているのかもしれません。
「勉強する」ではなく、「机に座る」「参考書を開く」「5分だけ読む」まで小さくする。「部屋を片付ける」ではなく、「床のペットボトルを3本捨てる」にする。
やる気が出るのを待つより、やる気がなくても始められる大きさまで行動を下げる方が現実的なことがあります。
「以前はできた」を、そのまま今の基準にしない
昔は残業もできた。休日も出かけていた。人付き合いもこなしていた。それなのに今は、仕事から帰ると何もできず、休日も寝て終わる。
そんな自分を見ると、「以前の自分に戻らなければ」と思います。しかし、以前できていたことが、以前から無理なくできていたとは限りません。
人より準備に時間をかけていた。残業で補っていた。休日をほとんど回復に使っていた。強い緊張で自分を動かしていた。周囲の助けがあった。そうして「できている」状態を保っていた人もいます。
そこへ仕事量の増加、異動、人間関係、睡眠不足などが重なると、これまで使えていた余白がなくなります。
やる気を作る前に、意欲を削っているものを探す
「やる気を出すために何をしたらよいですか」と考える時、最初から意欲を作ろうとしなくてもよい場合があります。むしろ、何が意欲を削っているのかを先に見ます。
- 十分に眠れているか
- 身体的・精神的な疲労がたまっていないか
- 仕事や家庭で求められていることが大きすぎないか
- 失敗や他者からの評価を怖がりすぎていないか
- 何をしても評価されない状態になっていないか
- 「しなければならないこと」ばかりで、休息や小さな楽しみがなくなっていないか
意欲は本人の中だけにあるものではありません。睡眠、体調、仕事量、人間関係、行動した後に何が返ってくるかといった、環境との関係でも大きく変わります。
調子のよい日の自分ではなく、疲れた日の自分に合わせる
意欲が低い時に「調子のよい日の自分」を毎日の基準にすると、調子の悪い日は何もできなくなりやすくなります。
今日は10できたから、明日も10やらなければ、と考えるのではなく、「悪い日でも2はできる」くらいの予定を作ります。
- 仕事は、最優先のものを一つ決める
- 家事は、全部ではなく生活を保つ最低限にする
- 運動は、30分ではなく家の周りを5分歩く
- 返信は、すべてではなく一件だけ返す
意欲が落ちている時に大切なのは、一日で以前の状態を取り戻すことではなく、「少しなら動ける」という感覚を完全に失わないことです。
できなかった証拠だけを集めない
意欲を下げるものの一つに、「やった後に自分をまったく評価しないこと」があります。
しんどい中で仕事へ行ったのに「行くのが普通だから」。少し片付けても「これくらい誰でもする」。その一方で、できなかった日は「やっぱり自分はだめだ」と強く評価する。
これでは、行動しても自分に何も返ってきません。「今日の自分はすばらしい」と無理に思う必要はありません。ただ、「今日はしんどい中で、ここまではできた」と事実を残します。
できなかった証拠だけを集め、できた証拠を毎回捨てないことは大切です。
何をしても楽しくない時は、意欲だけの問題にしない
「何をしても楽しくない」「以前好きだったことにも興味が出ない」という時は、「新しい趣味を見つける」だけでは足りないことがあります。心身の調子が大きく落ちていると、楽しむ力そのものが低下することがあるためです。
その時は「楽しかったか」だけを基準にせず、少し気が紛れた、疲れが少し減った、外へ出られた、食事ができた、眠れた、という変化から見ます。
「楽しい」を取り戻す前に、まず「しんどくない時間」を増やす方が先のこともあります。
小さく動くことは、自分を無理に追い立てることではない
意欲が落ちている時に、小さな行動から始める考え方は、心理療法の「行動活性化」とも重なります。行動と気分の関係を確認しながら、無理のない活動を少しずつ生活へ戻していく方法です。
ただし、「つらくても動けば治る」という意味ではありません。休養や環境調整、薬物療法などが必要な状態もあります。今の状態に合った方法を選ぶことが大切です。
やる気を出すのではなく、戻ってこられる条件を作る
意欲は、気合を入れれば湧いてくるガソリンのようなものではありません。
眠れている。少し余力がある。やれば小さくても何かが返ってくる。失敗しても致命的なことにはならない。始めるまでの負担が大きすぎない。こうした条件がそろって、少しずつ戻ってくることがあります。
だから、意欲がわかない自分を叱る前に、意欲が出にくい条件になっていないかを確認します。そして「やる気が出たら動く」ではなく、やる気がなくてもできるほど小さな行動を一つだけ置きます。

