こころの仕組み15
「元気になれば戻れるはず」と思っていたのに、職場へ戻る気になれない。
休職した頃は、まず休んで、体調が戻ったら復職しようと思っていた。最初は何もできなかったけれど、眠れるようになり、食べられるようになり、散歩にも出られるようになった。家では笑えるし、以前より明らかに体調はよくなっている。
それでも、上司から連絡が来ると気持ちが重くなる。会社の最寄り駅を思い浮かべると胸がざわつく。「そろそろ復職を考えましょう」と言われると、急に気分が沈む。
すると、「まだ治っていないのだろうか」「こんなに休んだのに、仕事をしたくないだけなのでは」と、自分を責める方がいます。
「働ける」と「この職場に戻れる」は別の話です
朝起きられる。食事が取れる。外出できる。人と話せる。集中力も少し戻ってきた。ここまで回復すると、「もう仕事もできるはず」と思われやすくなります。
しかし、生活する力が戻ったことと、以前と同じ環境・同じ負荷で働けることは別です。
骨折して歩けるようになっても、すぐに同じ距離を同じ速さで走れるとは限りません。こころの不調でも、自宅で過ごす力は戻ったけれど、強く消耗した環境へ戻るには別の負荷がかかることがあります。
「家では元気なのに、職場だけ無理」ということはあり得ます。
職場を思い出すだけでつらいのは、身体が覚えていることもある
休職前、毎朝つらかった。電車の中で動悸がした。会社へ着くと吐き気がした。上司の足音やメール通知で身体が緊張した。
このような経験を何か月も繰り返すと、休んで体調がよくなっても、職場に関係するものへ身体が警戒することがあります。頭では「今は大丈夫」と分かっていても、身体は「あそこへ戻れば、また同じことが起きるかもしれない」と反応します。
これは、意志が弱いというより、以前の経験から危険を予測している反応と考えた方が分かりやすい場合があります。
ただし、「全部不安のせい」と決めない
一方で、「職場へ戻りたくないのは不安症状だから」と、すべて本人のこころの問題にしてしまうのも適切ではありません。
- 仕事量が多すぎた
- 上司との関係やハラスメントに問題があった
- 人員不足で、休めない状態が続いていた
- 自分に合わない業務へ異動した
- 相談しても、職場の条件が変わらなかった
現実的な危険や負担が残っているのなら、「怖がらずに戻りましょう」だけでは解決しません。
「戻りたくない」という大きな言葉を、小さく分ける
「職場に戻りたくない」と感じていても、その中身は人によって違います。
- 上司や特定の人に会いたくない
- 同じ仕事内容や仕事量へ戻りたくない
- 休職した人として周囲に見られるのが怖い
- 復職後に遅れを取り戻すよう求められそうで不安
- また体調を崩すことが怖い
- 会社への信頼がなくなっている
- すでに別の働き方や転職を考え始めている
何に戻りたくないのか。何が変われば戻れるのか。何が変わっても難しいのか。そこまで分けると、対策できる問題と、時間をかけて決める問題が見えてきます。
遊べるのに仕事へ行けないことは、矛盾ではありません
休職中に旅行や趣味を楽しめるようになると、「遊べるのに仕事は無理なんて、ただ逃げているだけでは」と罪悪感を持つことがあります。
しかし、友人との食事と、強い負荷が続いていた職場は同じ条件ではありません。自分で時間を決められる。嫌なら断れる。失敗しても評価されない。責任を負わなくてよい。こうした違いがあります。
楽しい活動ができることは回復の一部ですが、それだけで以前と同じ仕事ができるとは決まりません。復職では、決まった時間に継続して活動できるか、負荷がかかった後に回復できるかも確認します。
休んで初めて、「本当に戻りたいか」を考えられることもある
働いている間は、辞めるかどうかを考える余裕さえなかった。朝起きて、会社へ行き、仕事を終わらせて、帰って眠る。それだけで精一杯だった。
休職して少し余力が戻ると、初めて「そもそも、この仕事を続けたいのだろうか」という問いが出てくることがあります。
休んだから怠けたのではなく、それまで考える余力がなかった問いを、ようやく考えられるようになったのかもしれません。
「戻りたくない」と「退職する」は分けて考える
戻りたくない気持ちは、そのままあって構いません。ただし、その感情と、退職届を出すという行動は分けて考えた方がよいことがあります。
本当に退職が適した選択になる場合もあります。一方で、強い不安や自信の低下がある時には「辞めるしかない」と感じやすくなることもあります。
- 現在の回復度睡眠、日中の活動、集中力、気分、安全性がどこまで安定しているかを確認します。
- 戻る時に予想される負担誰、どの業務、どの時間帯、どの責任が強い負荷になるのかを具体化します。
- 会社で変えられる条件勤務時間、残業、業務量、担当、部署、相談窓口などを確認します。
- 退職によって変わること収入、社会保険、傷病手当金、生活、次の仕事を考える余力への影響を整理します。
- 決定を急ぐ必要があるか今すぐ取り消しにくい決断をするより、情報を集める時間を持てるかを考えます。
戻るか辞めるかの二択にしないことで、考えやすくなる場合があります。
復職の話が現実になると、症状が戻ることがあります
それまでは比較的安定していたのに、復職面談の日程が決まった、会社から連絡が来た、「来月から戻れそうですか」と聞かれた。その瞬間から眠れない、動悸がする、気分が沈む。
「せっかく治っていたのに再発した」と見えることもあります。しかし、まだ整理できていなかった負荷が、復職という現実味を持ったことで表面に出た可能性もあります。
この反応だけで、復職できないとも、必ず復職すべきとも決まりません。何が怖いのかを確認する材料にします。
「また以前の自分に戻ること」が怖い場合もある
職場だけでなく、休職前の自分の働き方を怖いと感じていることもあります。
何でも引き受けていた。断れなかった。残業して補っていた。人に頼れなかった。ミスをすると何日も自分を責めた。期待されると、無理をしてでも応えた。
何も変えずに復職すれば、また同じ働き方になる気がする。本当に怖いのは、会社そのものだけでなく、そこへ戻ると、また以前の自分に戻ってしまうことかもしれません。
復職は「元の状態を完全に再現すること」ではない
復職という言葉には「元通り」というイメージがあります。しかし、休職前と同じ仕事量、同じ責任、同じ抱え込み方、同じ休めなさまで戻せば、再び負荷が高くなる可能性があります。
復職は、以前の生活を完全に再現することではありません。むしろ、何を元に戻さない方がよいかを考える機会です。
「戻れるか」ではなく、「何なら戻せるか」
フルタイムで元の業務へ戻れるか。無理なら復職できない。そう考えると、選択肢が0か100かになります。
勤務時間、業務量、担当、残業、通勤、相談体制、対人負荷を分けて考えます。
- 出勤はできそうだが、顧客対応はまだ難しい
- 定時勤務ならできそうだが、残業は難しい
- 同じ会社には戻れそうだが、以前の部署は難しい
- 業務を限定し、途中で相談できるなら試せそう
すると、「職場に戻れるか」ではなく、どの条件なら継続して働けるかという話に変わります。
それでも「戻りたくない」が残る時
体調が戻り、復職条件を整理し、環境調整の可能性も確認した。それでも「やはり戻りたくない」と思う。その気持ちも一つの情報です。
病気がよくなれば、必ず元の場所へ戻りたくなるわけではありません。休職をきっかけに、仕事に求めるものが変わった。以前は我慢できていたことを、もう我慢したくない。自分に合う働き方を考え直したい。そういうこともあります。
それをすぐ「逃げ」と決める必要はありません。感情はそのままあってよく、決断には少し時間をかけても構いません。
「戻る気になれない自分」を治す前に
まず、自分は何に戻りたくないのかを具体的にしてみてください。職場そのものなのか。仕事内容なのか。上司や人間関係なのか。以前の働き方なのか。また体調を崩すことなのか。それとも、別の人生を考え始めているのか。
休職の目的は、元の職場へ戻りたい気持ちを作ることではありません。まず、眠れる、食べられる、外へ出られる、考えられる、自分で選べる状態まで回復することです。その余力が戻ってから、これからどう働きたいかを考えます。
以前の職場へ戻る。条件を調整して戻る。別の部署へ移る。転職する。もう少し時間を置く。選択肢は一つではありません。
「戻れるか、戻れないか」だけでなく、自分はこれから、どうなら働けるのか。そこから考えてもよいのだと思います。
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本記事は一般的な心理教育を目的としており、個別の復職可否や退職の判断に代わるものではありません。復職の時期や就業上の配慮は、症状、仕事内容、職場制度を確認し、主治医や会社と相談して決めます。

