KOKORO NO SHIKUMI 16

不安は何を守ろうとしているのか

コラム

こころの仕組み16

不安をなくす前に、「何を失いたくないのか」を見てみる。

不安が強いと、「こんなに気にしなければいいのに」「考えても仕方がないのに」と思います。頭では分かっていても、仕事のミス、人間関係、体調、将来、お金、家族のことが次々と浮かび、まだ何も起きていないのに考え続けてしまう。

すると、最後は「自分は心配性だから」という説明で終わりやすくなります。

しかし、不安をもう少し近くで見ると、ただ自分を苦しめるために出ているのではないことがあります。不安はしばしば、何か大切なものを失わないようにするために働いています。

不安は、大切なものを守ろうとする警報です。ただし、警報が鳴っていることと、本当に今すぐ避難が必要なことは同じではありません。

不安は、「危険かもしれない」と知らせる警報です

明日に大事なプレゼンがある。少し不安になるから準備する。財布をなくしたかもしれない。不安になるから確認する。体調がおかしい。不安になるから医療機関へ相談する。

このように、不安には危険を予測して行動を促す役割があります。問題は、警報が必要以上に大きく、長く鳴り続ける時です。

「失敗するかもしれない」が「失敗したら終わりだ」になる。「嫌われるかもしれない」が「嫌われたら居場所がなくなる」になる。「体調が悪いかもしれない」が「重大な病気を見落としているかもしれない」になる。

可能性の話だったはずなのに、身体には今すぐ何とかしなければならない危険のように感じられます。

不安の中には、「何を守りたいか」が隠れています

表面に見えている心配と、その心配によって守ろうとしているものは、同じとは限りません。

WORK

仕事の評価と居場所

「ミスが怖い」の奥に、能力がないと思われたくない、信用や期待を失いたくないという気持ちがあることがあります。

RELATIONSHIP

人とのつながり

「嫌われるのが怖い」の奥に、一人になりたくない、見捨てられたくない、関係の中に居場所を保ちたいという思いがあることがあります。

HEALTH & CONTROL

生活を維持できる感覚

「病気が怖い」の奥に、自分が倒れたら家族や仕事はどうなるのか、自分で生活を保てなくなるのが怖いという不安が隠れていることがあります。

この場合、不安が守ろうとしているのは、単なるミスや症状の回避ではありません。自分の価値、所属感、つながり、生活を自分で動かせる感覚なのかもしれません。

だから、「考えなければいい」では止まりにくい

本人の中では、不安になることで大切なものを守ろうとしています。そのため、「そんなことは考えなくて大丈夫」と言われても、「考えなかったせいで、本当に悪いことが起きたらどうするの」と感じます。

不安を手放すことが、無防備になることのように思えるのです。

まず必要なのは、心配している自分を説得して黙らせることではありません。この不安は何を守ろうとしているのかを確かめることです。

安心するための行動が、次の不安を育てることがあります

不安になると、確認する、検索する、人に聞く、予定を何度も見直す、頭の中でシミュレーションする、避ける、といった行動が増えます。

こうした行動は、実際に一時的な安心をもたらします。だから、次も同じ方法を使います。

  1. 不安が起きる「上司に嫌われたかもしれない」「メールに間違いがあるかもしれない」と感じます。
  2. 安心を確かめる同僚に聞く、送信済みメールを何度も読む、相手の表情や返信を繰り返し確認します。
  3. 一時的に楽になる「大丈夫だった」と感じますが、自分で不確実さを扱えた経験は残りにくくなります。
  4. 次は、もっと確かめたくなる「今回は見落としているかもしれない」と考え、確認の回数や範囲が少しずつ増えていきます。

不安が続くのは確認が足りないからではなく、安心するための行動が、次の不安を維持していることがあります。

仕事では、不安が「丁寧さ」に見えることがあります

確認や準備は仕事に必要です。しかし、不安が強くなると、仕事の質を上げるための確認と、不安を下げるための確認が混ざります。

EMAIL

簡単なメールを送れない

誤字を直すだけでなく、「失礼だと思われないか」「能力がないと思われないか」まで確かめ続け、送信までに何十分もかかります。

MEETING

会議の準備が終わらない

必要な資料は揃っていても、急な質問へ完璧に答えられるまで安心できず、準備を切り上げられません。

WORKLOAD

頼まれた仕事を断れない

仕事量の問題より、「断ったら評価や居場所を失う」という不安が強く、限界を超えても引き受けてしまいます。

周囲からは、真面目で丁寧な人に見えることもあります。しかし、本人は一日中警戒し、帰宅後には何もする力が残っていないことがあります。

「安心できない」のではなく、100%安心しようとしていることもある

現実には、絶対に失敗しない、絶対に嫌われない、絶対に病気にならない、という保証はありません。しかし、不安が強い時の頭は「本当に大丈夫か」「可能性はゼロか」と100%を求めます。

99%の安心材料があっても、残りの1%が気になります。その1%を埋めるためにさらに考えますが、未来のことなので完全には埋まりません。

そのため、安心を求めるほど、安心が遠くなることがあります。

治療は、「悪いことは起きない」と思い込むことではありません

不安への治療は、無理に楽観的になることでも、「絶対に大丈夫」と言い聞かせることでもありません。未来は完全には分からないからです。

目指すのは、悪いことが起きる可能性を完全には消せなくても、自分は生活を続けられるという感覚を育てることです。

  • 失敗するかもしれない。それでも、今できる準備をしたら終える
  • 嫌われたかもしれない。それでも、相手の気持ちを確認し続けない
  • 体調がおかしいかもしれない。それでも、必要な医学的確認をしたら生活へ戻る
  • 会議でうまく話せないかもしれない。それでも、参加して必要な一言を伝える

ここで練習しているのは、安心しきることではありません。安心しきれない状態でも、必要な行動を選ぶことです。

不安をなくすより、「不安があっても選べる」を増やす

不安があると、行かない、言わない、断らない、挑戦しない、確認してからでないと動かない、という選択が増えます。すると、少しずつ不安が人生の決定権を持つようになります。

治療では、不安をゼロにしてから動くのではなく、「不安はあるけれど今日は行く」「嫌われるかもしれないけれど断る」「失敗するかもしれないけれど提出する」という行動を少しずつ増やします。

不安がなくなることより、不安があっても自分で選べることを目指します。

不安の奥には、大切にしているものがあります

仕事で失敗するのが怖いのは、仕事を大切にしているからかもしれません。人に嫌われるのが怖いのは、つながりを大切にしているからかもしれません。家族が心配なのは、家族が大切だからです。病気が怖いのは、これからの生活を大切にしたいからです。

不安を見た時に「また心配している」で終わらせず、「この不安は、何を守ろうとしているのだろう」と考える意味があります。

大切なものを守る方法は、不安だけではありません

守りたいものは、そのままで構いません。ただ、守り方は変えられることがあります。

  1. 何を守ろうとしているかを言葉にする評価、居場所、つながり、健康、生活、将来など、不安の奥にある大切なものを確認します。
  2. 解決できる問題と、不確実さを分ける今できる具体的な対応があるのか、それとも答えの出ない未来を考え続けているのかを分けます。
  3. 現実的な対策を一つ置く確認手順を作る、相談する、検診を受ける、仕事量を調整するなど、実際に役立つ行動を選びます。
  4. 不安を完全に消さず、生活へ戻る少し気になる状態を残したまま、次の仕事、食事、休息、人との会話へ注意を戻します。

不安そのものをなくすより、不安が担っていた仕事を、別の方法へ引き継ぐという考え方です。

「心配している自分」を責めなくていい。でも、全部従わなくてもいい

不安には、「失いたくない」「傷つきたくない」「大切にしたい」という気持ちが含まれていることがあります。そのため、不安が出た自分を責める必要はありません。

ただし、不安が言うことを毎回そのまま信じる必要もありません。不安は「危険かもしれない」と教えてくれますが、本当に危険なのか、どの程度の危険なのか、今すぐ何かをしなければならないのかまで、いつも正確に教えてくれるわけではありません。

警報は大切です。しかし、警報が鳴るたびに避難しなければならないわけではありません。

医療機関へ相談する目安

不安は誰にでもあります。次のように生活への影響が続く場合は、一人で不安をなくそうと頑張り続けず、心療内科・精神科などへ相談することを検討してください。

  • 不安や心配を自分で止めにくい状態が続いている
  • 確認、検索、回避のために仕事や生活へ支障が出ている
  • 眠れない、食べられない、動悸や吐き気などの身体症状が続く
  • 仕事へ行けない、ミスや欠勤が増えた、人間関係が狭くなった
  • 気分の落ち込みや、「消えたい」という気持ちを伴っている

身体症状が強い場合や急に始まった場合は、身体疾患の評価が必要なこともあります。「不安だから」と決めつけず、症状に応じた医療機関へ相談してください。

不安に聞いてみる

不安が強くなった時、「この不安をなくさなければ」と考える前に、少しだけ聞いてみます。

この不安は、何を守ろうとしているのだろう。守りたいものはそのままで、別の守り方はないだろうか。

相談する。仕組みを作る。少し任せる。分からないまま終える。怖くても一歩進む。不安になる、確認する、避ける、一人で考え続ける以外の方法を増やしていきます。

不安の治療とは、何も怖くなくなることではありません。大切なものを守りながら、不安だけに人生を任せなくてよくなることです。

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本記事は一般的な心理教育を目的としており、診断や個別の治療に代わるものではありません。不安の背景には、不安症、うつ病、強迫症、身体疾患、薬剤や生活状況など複数の要因があり得ます。

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