「月経前になると、いつもより強く落ち込む」
「職場の一言が気になり、イライラを抑えにくい」
「月経が始まると少し戻るけれど、毎月同じことを繰り返している」
PMS(月経前症候群)には、腹痛やむくみなどの身体症状だけでなく、落ち込み、不安、怒り、涙もろさ、集中しにくさなどの精神症状が現れることがあります。症状が仕事や人間関係に影響していても、「ホルモンの問題だから我慢するしかない」と考えている方も少なくありません。
2026年7月にJournal of Affective Disordersでオンライン公開された研究では、PMSに対する心理的介入のランダム化比較試験20件、計1,369人を統合し、症状への効果を検討しています。
PMSに対する心理的介入をまとめた研究
研究チームは、データベースの開始時点から2026年3月までに公表された研究を7つの電子データベースで検索しました。そのうち、PMSのある女性を心理的介入と対照条件へ無作為に割り付けた20件の試験、計1,369人をメタ解析に含めています。
メタ解析とは、複数の研究結果を一定の方法で統合し、全体としてどのような傾向があるかを調べる研究です。今回の解析では、研究ごとに異なる症状尺度を比較できるよう、標準化平均差(SMD)が用いられました。
落ち込み・不安・イライラにも改善が示された
著者らは、信頼区間がほかの研究と重ならない一つの試験を「極端な外れ値」と判断し、その試験を除いた感度分析も行っています。外れ値を除いた後も、PMS全体の症状に統計学的に有意な差が残りました。
- PMS全体の症状SMD −1.57(95%信頼区間 −1.94〜−1.21)。極端な外れ値とされた1試験を除いた感度分析の値です。
- 抑うつ症状SMD −1.08(95%信頼区間 −1.46〜−0.70)。月経前の落ち込みに改善が示されました。
- 不安症状SMD −1.03(95%信頼区間 −1.36〜−0.69)。月経前の不安や緊張に改善が示されました。
- 怒り・イライラSMD −0.85(95%信頼区間 −1.47〜−0.24)。対人関係や仕事にも影響しやすい症状です。
この研究では、症状の点数が低いほど状態がよい尺度を統合しているため、SMDがマイナスであることは心理的介入群の症状が軽かった方向を表します。
ただし、SMDは「症状が何%改善したか」を表す数字ではありません。異なる尺度を共通の単位へ換算した効果量であり、−1.57を「157%改善」と読むことはできません。
「心理的介入」とは何をするのか
PubMedの抄録では、各試験で用いられた介入の内訳や回数までは示されていません。キーワードには認知行動療法(CBT)が挙げられていますが、今回の統合結果を、そのまま特定の一つの心理療法だけの効果と考えることはできません。
一般に、PMSやPMDDに対する心理的支援では、次のような点を扱うことがあります。これは今回の20試験すべてに同じ内容が含まれていたという意味ではなく、実際の支援を理解するための例です。
- 症状と月経周期の関係を見えるようにする気分、睡眠、身体症状、月経開始日を毎日記録し、「いつから何が変わるか」を確認します。
- 症状が強い時の考え方と行動を整理する月経前に自己否定や悲観が強くなる、衝動的な連絡や決断が増えるなど、繰り返すパターンを具体的に見ます。
- 感情が強くなる前に対応を準備する大きな決断を保留する、予定を減らす、休息を確保する、重要な会話の日を調整するなど、先回りできる方法を考えます。
- ストレスへの対処を増やす呼吸、注意の切り替え、問題解決、周囲への伝え方など、我慢だけに頼らない対処を練習します。
ホルモンの影響なのに、なぜ心理的支援が役立つのか
PMSやPMDDを「気の持ちよう」と捉えるのは適切ではありません。月経周期に伴う身体的な変化が関わっており、性格の問題や我慢不足ではありません。
一方で、身体に生じた変化が、生活の中でどのような負担になるかは一つではありません。
眠りが浅くなる。集中しにくい。いつもなら流せる言葉に強く反応する。その後に「また関係を壊した」「自分はだめだ」と自分を責め、さらに落ち込みや不安が強くなる。月経前の症状を出発点として、考え方、行動、睡眠、対人関係が影響し合う循環ができることがあります。
この研究だけでは分からないこと
今回の結果は有望ですが、研究結果を個人の治療へ当てはめる前に、限界も確認する必要があります。
- どの心理療法が最も有効かは、この抄録だけでは分かりません。介入内容、回数、対照群、対象者の重症度など、試験ごとの詳細はPubMedの抄録に記載されていません。
- 一つの試験が極端な外れ値でした。除外後も差は残りましたが、研究間で結果に幅があることを意識する必要があります。
- 効果量が大きくても、全員が同じように改善するわけではありません。メタ解析は集団の平均的な傾向を示すもので、一人ひとりの反応を予測するものではありません。
- PMDDへそのまま一般化できるとは限りません。論文の対象はPMSとしてまとめられており、重症のPMDDだけを対象にした結果ではありません。
- 治療の長期効果は抄録から判断できません。介入終了後も効果がどの程度続くかは、本文と個々の試験を確認する必要があります。
また、論文ではCochraneの方法でバイアスリスクを評価したとされていますが、抄録には評価結果の要約がありません。したがって、この記事だけからエビデンスの確実性を高いと断定することはできません。
PMS・PMDDでは、まず周期性を確かめる
月経前の落ち込みやイライラがあっても、すべてがPMS・PMDDとは限りません。うつ病、不安症、双極性障害などの症状が月経前に強まる「月経前増悪」の場合もあります。また、甲状腺疾患や婦人科疾患など、ほかの身体状態の確認が必要なこともあります。
診断では、症状が月経前に現れ、月経開始後に軽くなるかを、毎日の記録で確認します。記憶だけで振り返るより、少なくとも2周期程度、気分・怒り・不安・睡眠・身体症状と月経開始日を記録すると、周期との関係を整理しやすくなります。
心理療法だけか、薬だけかの二択ではない
PMS・PMDDの治療は、症状の種類、重症度、妊娠の希望、身体疾患、本人の希望などに応じて選びます。心理的支援、生活調整、運動、薬物療法、ホルモン療法などを組み合わせる場合もあります。
身体症状、月経痛、不正出血などが目立つ場合や、婦人科疾患・ホルモン治療について検討する場合は、産婦人科が主な相談先です。月経前の落ち込み、不安、怒り、希死念慮が強い場合や、うつ病などとの区別が必要な場合は、精神科・心療内科へ相談する意義があります。
当院には心理士が在籍しておらず、院内で継続的な心理カウンセリングは行っていません。診察で症状と周期、仕事・生活への影響、薬物療法の必要性を整理し、心理療法が適すると考えられる場合は、大学附属の臨床心理センターなど外部の相談先をご案内しています。
毎月の不調で仕事や関係が崩れる前に
月経前の不調があること自体を責める必要はありません。ただ、毎月繰り返すからこそ、「その時期が過ぎるまで耐える」以外の方法を持つことには意味があります。
まず症状を記録する。負担が増える時期を知る。重要な決断を保留する。睡眠や仕事量を調整する。必要に応じて心理的支援や薬物療法、婦人科治療を組み合わせる。
今回の研究は、心理的介入がPMSの症状と精神的苦痛を軽減する可能性を示しました。まだ「どの方法を、誰に、どれくらい行うとよいか」まで一つの答えが出たわけではありません。それでも、月経前のつらさに対して、我慢と薬だけではない選択肢を検討する根拠の一つになります。
受診を検討したい目安
- 月経前の落ち込み、不安、怒りが毎月繰り返す
- 欠勤、遅刻、ミス、対人トラブルなど仕事への影響がある
- 月経前になると退職や別れなど大きな決断を衝動的にしたくなる
- 月経が始まっても不調が十分に軽くならない
- 「消えたい」「死にたい」という気持ちや自傷衝動が強くなる
自分の安全を保てない、具体的な自傷・自殺の方法を考えている、衝動を止める自信がない場合は、次の予約を待たず、119番への救急要請、救急医療機関、身近な人への連絡など、安全を確保する行動を優先してください。
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論文情報・参考資料
- Liu Y, Wu R, Liu X, et al. Efficacy of psychological interventions for premenstrual syndrome: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Journal of Affective Disorders. 2026;413:122264. doi:10.1016/j.jad.2026.122264. PubMed
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療指針. PDF
- 厚生労働省. 月経前症候群(PMS). PDF
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。対象論文はPubMed抄録をもとに要約しており、本文でしか確認できない詳細については断定していません。

