「話を聞いていない」「空気が読めない」「落ち着きがない」「努力が足りない」。
ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)の特性がある子どもは、学校や家庭で起きている困りごとを、本人の性格や努力の問題として受け取られることがあります。
しかし、子どものこころの不調は、本人の特性だけで決まるのでしょうか。
2026年にPsychological Medicineで公表された日本の研究では、通常学級に通う小中学生9,619人を小学4年生から中学3年生まで追跡し、ASD・ADHDの特性、友人関係、学習、家庭・教師との関係、こころの不調が時間の中でどう結びつくかを調べています。
「診断の有無」ではなく、特性と困りごとの変化を追った研究
この研究は、ある中規模都市の公立小中学校に通う通常学級の児童生徒を対象にした、地域ベースの縦断研究です。2012年度から2023年度までの11学年コホートを統合し、9,619人について、小学4年生から中学3年生まで最大6回のデータを分析しました。
ASD・ADHDの特性は保護者が回答し、友人関係の問題は本人・保護者・担任の情報を組み合わせました。学習、家庭、教師との関係や、抑うつ・不安などの内向的問題、怒り・攻撃性などの外向的問題も継続して評価しています。
解析には、ある学年で見られた特性や困りごとが、次の学年の状態とどう関連するかを検討する交差遅延モデルが使われました。ただし、観察研究であるため、ここから原因と結果を断定することはできません。
ASD特性では、友人関係と内向的な不調が影響し合っていた
ASD特性は、その後の内向的問題と関連していました。標準化係数は学年間で0.068〜0.097でした。また、その後の友人関係の問題との関連は0.146〜0.190で、研究で確認された経路の中でも比較的一貫していました。
さらに、友人関係の問題は次の時点の内向的問題と関連し、内向的問題も次の時点の友人関係の問題と関連していました。つまり、一方向だけではありません。
研究で見られた関連の流れ
特性だけで結果が決まるのではなく、人との関係やこころの状態が時間をかけて結びついていました。
コミュニケーションや、柔軟な切り替えの難しさ
行き違い、孤立、からかい、所属しにくさ
不安、落ち込み、人との関わりを避けやすくなること
会話の行き違いから友人関係が難しくなり、孤立や不安が強まる。反対に、不安や落ち込みが強いために人との関わりを避け、友人関係がさらに狭くなる。そのような循環が考えられます。
大切なのは、これを「本人に社会性がない」とまとめないことです。特性そのものだけでなく、周囲の理解、仲間との相性、安心して過ごせる居場所、困った時に助けを求められる関係が、その後の状態に関わる可能性があります。
ADHD特性では、学習と行動面の困りごとが次の負担につながっていた
ADHD特性は、その後の外向的問題と関連しており、標準化係数は0.064〜0.118でした。この関連は、とくに小学生の時期で強く見られました。また、その後の学習上の問題とも0.015〜0.069の関連がありました。
ここでいう外向的問題は、怒りや攻撃性、行動上の問題などをまとめた研究上の指標です。「悪い子になる」という意味ではありません。
指示の一部を聞き落とす。提出物を忘れる。順番を待つことが難しい。考える前に言葉や行動が出る。こうしたことが繰り返されると、注意や失敗が増え、本人も周囲も疲れていきます。
研究では、小学生の学習上の問題が、その後の内向的問題と0.055〜0.090の範囲で関連していました。また、外向的問題は、その後の教師との関係の問題と0.103〜0.262の範囲で関連していました。学習や行動の困りごとは、家庭での負担とも結びついていました。
「二次障害」は、本人だけの中で起きるものではない
発達特性そのものとは別に、不安、抑うつ、自己評価の低下、怒り、登校しづらさなどが重なることを、臨床では「二次障害」と表現することがあります。
ただ、この言葉を使う時にも注意が必要です。二次的な不調は、本人の特性から自動的に生じるわけではありません。
求められることと本人が処理できる方法が合っていない。失敗が続いても手順が変わらない。からかいや孤立が続く。困っている行動だけを叱られ、背景を一緒に整理してもらえない。こうした環境とのミスマッチが積み重なることがあります。
この論文では「social maladjustment(社会的不適応)」という研究用語が使われていますが、子どもを「社会に適応できない人」と評価するための言葉ではありません。この記事では、本人と環境の間で起きている具体的な困りごととして捉えます。
支援では、診断名より「どこで何が起きているか」を見る
- 困りごとを小さな行動へ戻す「落ち着きがない」ではなく、長い口頭指示の後半を忘れる、提出物の締切を把握しにくい、休み時間の会話に入りにくい、というように具体化します。
- 本人が処理しやすい伝え方に変える指示を短く分ける、目で確認できる形にする、課題の開始点を明確にする、予定変更を早めに伝えるなど、意欲ではなく情報の渡し方を調整します。
- 友人関係の安全を確かめる友達の数を増やすことより、からかいや排除がないか、安心して話せる相手が一人でもいるか、休める場所があるかを確認します。
- 家庭と学校で「事実」を共有する「わがまま」「反抗的」という評価ではなく、いつ、どこで、何が起き、その前後に何があったかを共有すると、支援方法を考えやすくなります。
- 不安や抑うつ、怒りを別の問題として扱う発達特性があるから仕方がないと済ませず、眠れない、食べられない、学校へ行けない、自分を強く責めるなどの変化があれば、こころの不調として評価します。
目標は、すべての場面で周囲と同じようにできることではありません。少しくらい失敗や行き違いがあっても、本人の尊厳や生活が大きく崩れず、必要な助けを使える状態を作ることです。
この研究だけでは分からないこと
結果を日常生活へ当てはめる前に、研究の限界も確認しておく必要があります。
- 因果関係を証明した研究ではありません。特性が不調を直接引き起こした、友人関係が間に入って不調を起こした、と断定することはできません。
- 診断を受けた子どもの追跡研究ではありません。通常学級の児童生徒について、質問票で測った特性の程度を分析しています。
- 一つの地域の研究です。特別支援学級・特別支援学校の子どもや、ほかの地域・文化へ同じように当てはまるとは限りません。
- 質問票には限界があります。本人・保護者・担任の回答を組み合わせた工夫はありますが、評価者の見方や項目の重なりの影響は残ります。
- 成人へそのまま一般化はできません。対象は小学4年生から中学3年生です。成人の職場や家庭での困りごとを直接検証した研究ではありません。
大人になってから発達特性が気になる方へ
今回の研究は子どもを対象としていますが、大人の診療でも、診断名だけではなく、本人の特性と環境の組み合わせを見ることは重要です。
学生時代は家族や学校の支えで大きな問題がなかった。仕事量が増え、口頭指示や同時進行が多くなってから困りごとが目立った。異動や昇進で、これまで使えていた工夫が通用しなくなった。そのように、環境が変わって初めて負担が表面化することがあります。
ただし、忘れ物、集中しにくさ、対人関係の難しさがあるだけでASD・ADHDと決まるわけではありません。睡眠不足、うつ状態、不安、身体疾患、仕事の負荷などでも似た状態は起こります。現在の困りごととこれまでの経過を整理して評価することが大切です。
子どもの相談先と、当院で対応できること
当院は18歳未満の方の診療には対応していません。お子さんの発達特性やこころの不調については、まず学校の担任・養護教諭・スクールカウンセラー、地域の発達相談窓口、小児科、児童精神科などへご相談ください。自傷や「死にたい」という訴え、食事や睡眠の著しい低下など安全に関わる変化がある場合は、早めに医療機関へつながることが大切です。
18歳以上の方で、子どもの頃から続く困りごとや、仕事・生活とのミスマッチについて相談したい場合は、当院で現在の状態と経過を整理します。心理検査だけを目的とした直接予約ではなく、まず診察で必要性を確認します。
本人を変える前に、関係と環境を見直す
この研究が示したのは、発達特性とこころの不調の間に、単純な一本道があるということではありません。
友人関係が不安を強め、不安が人との関わりを難しくする。学習の失敗が自己評価を下げ、行動上の困りごとが教師や家庭との関係を緊張させる。そのような循環が、学年をまたいで続く可能性が示されました。
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参考文献
- Hashimoto T, et al. Longitudinal associations among autism and ADHD traits, social maladjustment, and mental health in school-aged children. Psychological Medicine. 2026;56:e246. doi:10.1017/S003329172610539X. PubMed
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。研究結果は集団の傾向であり、一人ひとりの経過を予測するものではありません。

