神戸三宮の心療内科・精神科仕事とこころのクリニック
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CLINICAL PHILOSOPHY

精神科医として、学び続けるということ

コラム

精神科医として日々診療をしていると、薬の知識や診断技術だけでは十分ではないと感じる場面があります。

患者さんの話をどう聴くか。どこまで踏み込み、どこからは待つのか。薬を使うことと、使わないことをどう判断するのか。休職や復職、家族関係、職場環境、依存、発達特性、人生の選択にどう関わるのか。

精神科医の仕事は、病名をつけて薬を処方することだけではありません。その人が置かれている状況を理解し、少しでも自分の生活を取り戻せるように、一緒に整理していく仕事だと考えています。

そのような診療への向き合い方を育てるうえで、私自身、さまざまな精神科医の先生方や文章から影響を受けてきました。この記事では、特に印象に残っている学びと、それを当院の診療でどのように大切にしているかをまとめます。

患者さん本人の意思を置き去りにしない

田中禎先生から学ぶ「治療への参加」

田中禎先生は、西宮市の「ただしメンタルクリニック」で診療されている精神科医です。アルコールをはじめとする依存症臨床に携わり、アドラー心理学の考え方も診療へ取り入れてこられました。

公開されているインタビューを読んで特に印象に残るのは、患者さん本人の意思や納得を大切にしていることです。

精神科では、ご家族や職場が心配し、本人より先に受診の必要性を感じることがあります。周囲が変化に気づくことは大切ですが、治療を継続していくには、患者さん本人が説明を受け、自分の問題として考え、方針の決定に参加できることが欠かせません。

特に依存症のように、本人の受診意欲や家族関係が複雑に関わる領域では、一方的に「治しなさい」と指示するだけでは協力関係を築きにくいことがあります。

精神科治療は、医師が患者さんを一方的に変えるものではなく、患者さんが自分で選び直していく過程を支えるものです。

私自身の診療でも、医師の考えを押しつけるのではなく、必要な情報を説明し、患者さんの希望や迷いを確認しながら、一緒に現実的な方針を考える姿勢を大切にしたいと思っています。

言葉で分かったつもりにならない

「もなかのさいちゅう」から学ぶ臨床の考え方

精神科医のブログとして、長く読んできたものの一つに「もなかのさいちゅう」があります。精神科臨床で生じる迷いや注意点を、研修医や若手の精神科医にも届く言葉で丁寧に扱っている文章です。

診断基準を満たすか、薬をどう選ぶか、患者さんの語りをどう理解するか。こうしたことには医学的な知識が必要ですが、知識を知っていることと、目の前の患者さんへ適切に使えることは同じではありません。

心理学の用語や診断名を覚えると、複雑な状態を分かりやすく整理できます。一方で、言葉が先に立つと、その人の個別性を見失うことがあります。

  • 診断名だけで、その人を理解したつもりにならない
  • 専門用語を、患者さんを決めつけるために使わない
  • 理論に合わない情報も、急いで切り捨てない
  • 分からないことを、分かったように扱わない

精神科医に必要なのは、使える言葉を増やすことだけではありません。言葉を慎重に使い、その言葉からこぼれるものへ目を向けることも、同じくらい大切だと感じています。

エビデンスと現場の間で考える

「kyupinの日記」から感じる臨床経験の重み

「kyupinの日記」は、精神科の薬物療法、統合失調症、双極性障害、うつ病、発達障害、身体疾患との関係など、幅広い話題を長年にわたり扱ってきた精神科医のブログです。

精神科の薬は、同じ診断名であっても、効果や副作用の出方が一人ひとり異なります。生活背景、身体疾患、睡眠、仕事、併用薬、過去の治療歴によっても、選択や調整は変わります。

医学的な根拠や診療ガイドラインを確認することは当然必要です。しかし、集団を対象とした研究結果を、目の前の一人へそのまま機械的に当てはめればよいわけではありません。

エビデンスを土台にしながら、患者さんの生活と経過を見て、個別に調整する。

その往復が、実際の診療には必要です。私自身も、単に「この病気にはこの薬」と考えるのではなく、日中の眠気、仕事への影響、副作用への不安、本人の希望まで含めて治療方針を考えたいと思っています。

なお、同ブログ自身も、過去の記事には現在の適応や処方制限と一致しないものがあり得ると案内しています。医療情報は公開時点を確認し、個別の治療については主治医と相談することが大切です。

正確さを保ちながら、届く言葉にする

藤野智哉先生から学ぶ情報発信

藤野智哉先生は、精神科医として診療を行いながら、書籍やウェブメディアを通じて、一般の方へメンタルヘルスの情報を発信されています。

精神医学の情報は、専門的になりすぎると必要な人へ届きません。一方で、分かりやすさを優先しすぎると、症状や治療を単純化し、誤解を生むことがあります。

たとえば、「気にしすぎないで」「もっと前向きに」「頑張らなくていい」という言葉が助けになる方もいます。しかし、心身が弱っている時には、「それすらできない自分はだめだ」と、かえって負担になることもあります。

一般の方に届く言葉で、精神医学的な正確さを大きく損なわずに伝えることは、簡単ではありません。藤野先生の発信からは、精神医学をやわらかく身近に、それでいて軽くしすぎずに伝える姿勢を学びます。

受診前の方、ご家族、職場で誰かを支える方にも、情報は届く必要があります。当院のホームページでも、「この程度で相談してよいのだろうか」と迷う方が、次の行動を考えられる情報を届けたいと思っています。

異なる先生方から学んだ、四つのこと

先生方や文章から受け取った学びは、それぞれ異なります。

  1. 本人の意思を尊重する治療を押しつけず、患者さんが説明を受け、納得して方針を選べる関係をつくります。
  2. 言葉で決めつけない診断名や理論は理解のために使い、その人の全体を一つの言葉へ閉じ込めないようにします。
  3. 根拠と個別性の両方を見るエビデンスを土台に、症状、生活、仕事、身体状態、治療への希望に合わせて考えます。
  4. 必要な人へ届く言葉で伝える正確さを保ちながら、受診前の方にも理解できる情報発信を続けます。

共通しているのは、精神科医療を知識や技術だけで完結させず、人と人との関係の中で考えていることだと思います。

仕事とこころのクリニックで大切にしていること

当院では、働く世代のメンタルヘルスを中心に、うつ病、適応障害、不安症、不眠症、発達特性、休職・復職などのご相談をお受けしています。

診療では、次のことを大切にしています。

  • 患者さんの話と生活背景を丁寧に確認する
  • 診断名だけで、その人を決めつけない
  • 薬の必要性、期待できる効果、副作用を説明する
  • 薬を使わない選択肢も含めて検討する
  • 休職や復職を、体調と職場環境の両面から考える
  • 医師の考えを押しつけず、本人の意思を確認する
  • 受診前の不安を減らせる情報を発信する

精神科・心療内科の受診には、今も抵抗を感じる方が少なくありません。

「こんなことで受診してよいのか」「薬を出されるだけではないか」「すぐに仕事を休むように言われるのではないか」。そうした不安も含めて相談できる場所でありたいと考えています。

学び続けることも、精神科医の仕事

精神科医は、患者さんの人生を代わりに生きることも、すべての問題を解決することもできません。

それでも、今どこで困っているのかを一緒に整理し、治療や生活の選択肢を示し、次の一歩を考えることはできます。

患者さん本人の意思を尊重すること。臨床を丁寧に言葉にすること。医学的な根拠と個別の経過を行き来すること。必要な方へ届く言葉で伝えること。

私自身も、尊敬する先生方やさまざまな文章から学び続けながら、神戸三宮・元町で、一人ひとりの生活にとって意味のある診療を積み重ねていきたいと思います。

記事で紹介した先生方・文章

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