DEFENSE MECHANISM

抑制とは?

その反応が、何から心を守っているのかを考えます
ADAPTIVE DEFENSES

感情を消すのではなく、「今は扱わない」と自分でいったん脇へ置く力があります。

感情を消すのではなく、「今は扱わない」と自分でいったん脇へ置く力があります。

WHAT IT PROTECTS

抑制は、何から心を守っているのか。

感情に生活のすべてを止められないようにし、必要な判断や行動を続ける力を守ります。感情に支配される怖さも下げ、自分で扱うタイミングを選べます。

一方、保留できたことは、負担が軽かったことではありません。仕事中は働けても、帰宅後に力が尽きるのは、一日中、感情を保留するために大きな調整力を使った結果かもしれません。

READING

――感情を消すのではなく、「今ではない」と決める力

嫌なことがあった。

腹が立った。

傷ついた。

泣きたい。

でも、今は仕事中。

このあと会議がある。

患者さんやお客さんの前に出なければならない。

だから、

「これは帰ってから考えよう」

といったん脇に置く。

そして、目の前の仕事をする。

こうした心の働きを、心理学では抑制(suppression)という言葉で考えることがあります。

抑制は、

感情がないことにするのではありません。

「あることは分かっている。でも、今は扱わない」

と、一時的に保留する働きです。

うまく使えれば、

かなり成熟した対処になります。

CONTENTSこの記事の見出し
  1. 01感情は、いつでもその場で出せばいいわけではない
  2. 02「なかったことにする」のではなく、「あとで戻る」
  3. 03抑圧とは少し違います
  4. 04回避とも少し違います
  5. 05抑制がうまく働く人は、「戻る場所」を持っている
  6. 06仕事中は平気なのに、帰宅すると急に崩れることがある
  7. 07「職場で普通に働けた」だけでは、余力があるとは限らない
  8. 08抑制には、「あとで」が必要です
  9. 09「あとで考える」と決めたなら、できれば時間を具体的にする
  10. 10ただし、戻る時間になっても、戻れないことがあります
  11. 11戻れない時は、「全部扱う」必要はない
  12. 12「何を感じた?」で戻れないなら、「何が残っている?」と聞く
  13. 13「戻る予定」を決めても毎回戻れないなら、別の方法を使う
  14. 14抑制は、「感情を我慢する技術」ではない
  15. 15「今日は扱わない」という選択もある
  16. 16保留した感情に戻るタイミングは、「落ち着きすぎてから」でなくてもいい
  17. 17抑制が必要な場面と、使いすぎている場面を分ける
  18. 18「いつも冷静な人」は、感情が少ないとは限らない
  19. 19「その場で感じない自分」を責めなくていい
  20. 20抑制とうまく付き合うための、簡単な確認
  21. 21抑制は、「感情と行動の間に時間を作る力」でもある
  22. 22ただし、保留した感情を永遠に預けっぱなしにしない
  23. 23抑制とうまく付き合うということ

感情は、いつでもその場で出せばいいわけではない

「感情をため込まない方がいい」

と言われることがあります。

もちろん、ため込み続けることは負担になります。

でも、

感じたことを全部その場で表現することが健康というわけでもありません。

上司に腹が立った。

その場で怒鳴る。

悲しくなった。

会議中に全部話し始める。

不安になった。

すぐ仕事を中断する。

これでは社会生活が難しくなることがあります。

人には、

感情を感じながら、それをいつ扱うか選ぶ力

も必要です。

抑制は、そのための働きです。

「なかったことにする」のではなく、「あとで戻る」

ここが、抑制を理解する一番大切なところです。

たとえば、

上司に言われた一言がかなり嫌だった。

でも、今は仕事を続けなければならない。

そこで、

「今かなり腹が立っている。

でも、この話は仕事が終わってから考える」

とする。

感情を認識しています。

ただ、今はそこへ入り込まない。

これは、

感情を否定することではなく、感情を扱う時間を自分で選んでいる

状態です。

抑圧とは少し違います

「抑制」と「抑圧」は似た言葉ですが、少し違います。

抑制では、

自分が何を感じているか、ある程度分かっています。

「腹が立っている。でも今は置いておく」

「悲しい。でも今日は仕事を終える」

という形です。

一方、抑圧では、

感情や記憶そのものが意識に上がりにくくなることがあります。

本人は、

「別に何とも思っていません」

と言う。

でも、

眠れない。

身体が緊張する。

なぜかその話題を避ける。

という形で影響が残ることがあります。

かなり単純化すれば、

抑制は「知っているけど今は扱わない」。

抑圧は「自分でも気づきにくくなっている」。

という違いです。

回避とも少し違います

回避では、

嫌な感情が出そうな場所や話題そのものから離れます。

上司との話し合いが怖いので、ずっと予定を入れない。

思い出すのがつらいので、その話題を何年も避ける。

一方、抑制では、

「今は扱わない。でも必要なら戻る」

という前提があります。

ここが重要です。

「今日は考えない」

と、

「二度と考えない」

は違います。

抑制がうまく働く人は、「戻る場所」を持っている

たとえば仕事中に嫌なことがあった。

その場では抑える。

そして帰宅後、

家族に少し話す。

日記に書く。

一人で振り返る。

翌日、必要なら上司に伝える。

つまり、

感情を一時的に預けておいて、

あとでちゃんと回収する

ことができます。

この「戻れる」があるから、

抑制は比較的健康的な対処になります。

仕事中は平気なのに、帰宅すると急に崩れることがある

これはよくあります。

職場では普通に話している。

笑っている。

仕事もしている。

周囲からは、

「大丈夫そうですね」

と言われる。

でも家に帰った瞬間、

涙が出る。

何もしたくない。

ソファから動けない。

家族に話しかけられるだけでイライラする。

本人も、

「仕事中は平気だったのに、なんで家に帰るとこんなになるんだろう」

と思う。

でも、これは必ずしも不思議ではありません。

仕事中は、

「今は崩れられない」

と感情を抑制していた。

安全な場所へ戻って、

ようやく抑えていたものが出てきた。

ということがあります。

「職場で普通に働けた」だけでは、余力があるとは限らない

ここはかなり重要です。

仕事はできた。

だから大丈夫。

とは限りません。

一日中、

怒りを抑える。

不安を抑える。

泣きたいのを止める。

人に合わせる。

それで8時間働いた。

帰宅後には、

感情を調整する力がほとんど残っていない。

すると、

家で崩れる。

つまり、

仕事ができていたのではなく、仕事のために持っていた調整力を使い切っていた

可能性があります。

「できている」と「無理なくできている」は、ここでも違います。

抑制には、「あとで」が必要です

抑制が苦しくなるのは、

「あとで」が永遠に来ない時です。

今日は忙しいからあとで。

明日も仕事だからあとで。

週末は家族の予定があるからあとで。

来週はもっと忙しいからあとで。

すると、

一時的な保留だったはずのものが、

長期保存

になります。

ここから、

「何を感じていたのか分からない」

「急に涙が出る」

「最近イライラする」

という形で出ることがあります。

「あとで考える」と決めたなら、できれば時間を具体的にする

かなり実用的なのは、

「あとで」

を曖昧にしないことです。

たとえば、

今日20時に10分だけ考える。

帰宅して風呂に入った後、メモに書く。

明日の診察で話す。

週末にパートナーと話す。

というように、

戻る時間や場所を決めておく。

これだけで、

「ただ押し込めた」のか、

「いったん預けた」のかが変わります。

ただし、戻る時間になっても、戻れないことがあります

20時になった。

でも、

考えたくない。

日記を開いたけれど書けない。

診察で話そうと思ったのに、

別の話をして終わった。

こういうことがあります。

そこで、

「自分はまた逃げた」

と責める必要はありません。

むしろ、

戻るにはまだ負荷が高すぎる

という情報かもしれません。

戻れない時は、「全部扱う」必要はない

たとえば、

今日の出来事を全部振り返るのはつらい。

なら、

「今日かなり嫌だった」

だけでもいい。

何が嫌だったか分からない。

なら、

「帰宅したら肩がかなり重かった」

でもいい。

昔のことまで思い出すのは無理。

なら、

今日の身体反応だけを見る。

つまり、

感情の中心まで一気に戻らず、周辺から少し触れる

方法があります。

「何を感じた?」で戻れないなら、「何が残っている?」と聞く

感情を聞かれると、

分からない人がいます。

そんな時は、

「今、何が残ってる?」

と考えます。

胸の重さ。

肩の緊張。

怒りっぽさ。

頭の中で繰り返す言葉。

「もう嫌だ」という感覚。

ここから入る方が自然なことがあります。

「戻る予定」を決めても毎回戻れないなら、別の方法を使う

一人で感情に戻るのが難しい人もいます。

そういう時は、

一人で処理しようとしない。

診察。

カウンセリング。

信頼できる人との会話。

メモ。

散歩しながら考える。

など、

戻りやすい状況を作ります。

「自分一人で感情処理できること」を成熟の条件にしなくていいと思います。

抑制は、「感情を我慢する技術」ではない

抑制というと、

我慢強い人になることのように聞こえます。

でも本来は、

感情を消すのではなく、

扱うタイミングを選べること

です。

今は仕事。

だから後にする。

今は安全な場所ではない。

だから話さない。

今は疲れすぎている。

だから今日は寝て、明日扱う。

ここには選択があります。

「今日は扱わない」という選択もある

感情を扱う予定を決めた。

でもその日、

かなり疲れている。

そんな時は、

「今日は扱わない」

と決め直してもいい。

ただし、

「もうどうでもいい」

と消してしまうのではなく、

「今日は無理だから、次は土曜日にする」

と再設定する。

心理的柔軟性は、

一度決めた予定を絶対守ることではありません。

必要なら選び直します。

保留した感情に戻るタイミングは、「落ち着きすぎてから」でなくてもいい

完全に平気になってから戻ろうとすると、

ずっと戻れないことがあります。

大切なのは、

多少嫌な感じが残っていても、

自分を失うほどではない状態。

少し考えられる。

言葉にできる。

途中でやめられる。

このくらいです。

つまり、

感情がゼロになってから扱うのではなく、扱える程度まで下がったところで戻る。

抑制が必要な場面と、使いすぎている場面を分ける

たとえば、

患者さんの前。

重要な会議。

子どもの前。

ここで感情をいったん抑えることは役に立ちます。

でも、

家でも抑える。

一人でも抑える。

診察でも、

「別に大丈夫です」

と抑える。

となると、

感情を置ける場所がなくなります。

問題は、

抑制そのものではありません。

抑制を解除できる場所があるか

です。

「いつも冷静な人」は、感情が少ないとは限らない

何があっても冷静。

仕事では頼りになる。

人前で取り乱さない。

そういう人ほど、

周囲から、

「メンタルが強い」

と思われます。

実際に強い部分もあると思います。

でも、

冷静に見えることと、

負荷が少ないことは別です。

家に帰ると動けない。

一人になると泣く。

身体症状が出る。

休日は寝て終わる。

なら、

冷静さのためにかなりのエネルギーを使っている

可能性があります。

「その場で感じない自分」を責めなくていい

大きな出来事があったのに、

その場では涙が出なかった。

周囲から、

「意外と冷静ですね」

と言われた。

後になって、

急に悲しくなる。

それでもおかしくありません。

こころには、

安全な時まで感情を待たせる力

があります。

その場で感じられなかったから、

感情がなかったわけではありません。

抑制とうまく付き合うための、簡単な確認

嫌なことがあった時、

こう考えます。

今、この感情を扱える場所?

扱える。

→ 少し感じてもいい。

扱えない。

→ 一度保留する。

そして次に、

いつ戻る?

時間や場所を決める。

さらに、

戻れなかったら?

一人で無理に掘らず、身体から触れる。人と一緒に扱う。再設定する。

この三段階くらいで十分です。

抑制は、「感情と行動の間に時間を作る力」でもある

怒っている。

でも、今すぐメールを送らない。

悲しい。

でも、会議の途中では話さない。

不安。

でも、今すぐ結論を出さない。

つまり抑制は、

感情を否定するのではなく、

感情がそのまま行動になるのを一度止める力

でもあります。

これは行動化を防ぐ意味でも重要です。

ただし、保留した感情を永遠に預けっぱなしにしない

感情は、

いつでも全部処理する必要はありません。

忘れていくものもあります。

時間が解決するものもあります。

でも、

何度も思い出す。

身体に出る。

同じ場面で繰り返し反応する。

生活に影響している。

なら、

まだ何かが残っている可能性があります。

そういう時には、

一度戻ってみる意味があります。

抑制とうまく付き合うということ

感情は、

出せば健康。

抑えれば不健康。

というほど単純ではありません。

社会で生きていれば、

今は泣けない。

今は怒れない。

今は考えられない。

という場面があります。

そこで、

「今は扱わない」

と決められることは、一つの力です。

ただ、

大切なのは、

「今は扱わない」と「なかったことにする」を分けること。

今は仕事だから置いておく。

でも、自分が傷ついたことは知っている。

今は話せない。

でも、いつか必要なら戻る。

戻ろうとして難しかったら、

一人で無理にこじ開けない。

少しずつ触れる。

人の力も借りる。

抑制とは、

感情を押し殺すことではありません。

感情に、「今ではない」と言えること。

そして必要な時には、

「もう戻ってきてもいい」と言えること。

その両方があって初めて、

感情に振り回されず、感情を失わずに生きていけるのだと思います。

FIRST STEP

脇へ置く時に、戻る予定も一緒に決める

「今は仕事を終える。今夜10分だけ書く」「次の診察で扱う」と、いつ、どこで、誰と戻るかを決めます。忘れないためのメモは一行で十分です。

戻った時に完全な答えや正確な感情名は必要ありません。「何が残っているだろう」と聞き、疲労、肩の力、睡眠、呼吸など周辺から触れます。

気持ちに戻れない日があっても、自分を責めません。扱う時間を変え、一人ではなく、信頼できる人、診察、カウンセリングなどの力を借ります。

AT WORK

仕事の中で、この反応が起きる時

職場では、感情と行動の間に時間を作るために抑制が役立ちます。ただし、「働けた」ことと、負担が少なかったことは同じではありません。

業務後の切り替え、上司や人事への相談、休養、診察など、保留した負担を戻す場所を作ります。ハラスメントや過重労働を、業務時間外に自分だけで処理する必要はありません。

保留の3点を決める

「ここで扱えるか」「難しいならいつ戻るか」「戻れない時は誰の力を借りるか」を確認します。

退勤時に身体を確認する

「平気か」ではなく、頭痛、肩の力、疲労、食欲を見て、必要な回復時間を取ります。

一行メモで頭から下ろす

「上司の言葉が残っている」と書き、覚え続ける仕事をメモに任せます。

安全な出口を先に作る

散歩、家族へ話す、診察で扱うなど、仕事と感情の間に一つの場所を作ります。

MORE OPTIONS

その反応を奪わず、別の守り方を足す。

急に手放そうとすると、元のつらさだけが残ります。まず選択肢を一つ増やします。

01

「今ではない」と明確に決める

感情を否定せず、どの業務が終わるまで保留するかを具体的にします。

02

戻る予定は変えてもいい

今日は難しければ日時を変えます。変更と永久の放置を分けます。

03

周辺から触れる

「何を感じるか」が難しい時は、身体、睡眠、「何が残っているか」から始めます。

04

一人で処理しない

歩く、メモを書く、人に話す、医療者と扱うなど、素材に合わせて場所を選びます。

05

扱う量を小さくする

すべてを話さず、一つの場面を数分だけ扱い、次回へ続けます。

WHEN TO CONSULT

医療機関へ相談する目安

防衛機制そのものを治療するのではなく、生活への影響や背景にある症状を確認します。

  • 仕事中は動けても、帰宅後や休日にほとんど動けない
  • 保留した問題へ戻れず、不眠、涙、反芻、身体症状が続く
  • 平気に振る舞った後、突然動けなくなることを繰り返す
  • 感情を扱おうとすると強い不安や現実感の低下が出る
  • ハラスメントや過重労働を一人で抱え、相談や休養ができない
REFERENCES参考文献・執筆上の注意表示する

防衛機制に関する総説・評価研究をもとに、患者さん向けに整理しています。

  1. Defense mechanisms: 40 years of empirical researchJ Pers Assess, 2015 / PMID: 25157632
  2. The Hierarchy of Defense Mechanisms: Assessing Defensive Functioning With the DMRS-QFront Psychol, 2021 / PMID: 34721167
  3. Involuntary coping mechanisms: a psychodynamic perspectiveDialogues Clin Neurosci, 2011 / PMID: 22034454
  4. Adaptive midlife defense mechanisms and late-life healthPsychol Aging, 2013 / PMC3767455

研究上の分類は複数あり、同じ反応の意味も状況によって異なります。このページだけで診断することはできません。

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