DEFENSE MECHANISM

取り入れとは?

その反応が、何から心を守っているのかを考えます
RELATIONSHIP & SHAME

誰かに言われた言葉が、自分を責める声として内側に残ることがあります。

誰かに言われた言葉が、自分を責める声として内側に残ることがあります。

WHAT IT PROTECTS

取り入れは、何から心を守っているのか。

相手の期待に合わせれば、見捨てられず、間違えずに済む。自分で基準を決める不安も減ります。厳しい声であっても、つながりを保つ方法になることがあります。

しかし、その声が今の生活に合わなくなっても「自分の本心」として働くと、休む、断る、助けを求めることまで難しくなります。

READING

――大切な人や強い相手を、自分の中に持ち続けることで安心してきたことがある

「人に迷惑をかけてはいけない」

「仕事は最後までやり切るべき」

「弱音を吐くのは甘え」

「人に頼るくらいなら、自分でやった方がいい」

そう考えている。

本人にとっては、

「自分の価値観です」

と感じています。

でも少し聞いてみると、

「父がよく言っていました」

「前の上司がそういう人でした」

「母はずっとそういう考えでした」

ということがあります。

人は、親しい人や大切な人、強い影響を持つ人から、

考え方。

価値観。

物事の見方。

自分への接し方。

を少しずつ受け取ります。

そして、それがいつの間にか、

自分の内側から聞こえる声

になることがあります。

こうした心の働きを、心理学では取り入れ(introjection)という言葉で考えることがあります。

CONTENTSこの記事の見出し
  1. 01人は、誰にも影響されずに「自分」になるわけではない
  2. 02問題になるのは、「もらったルール」を今も自分で選んでいるか分からなくなった時
  3. 03「自分に厳しい性格」と思っていたものが、誰かの声だったことがある
  4. 04取り入れには、「その人を失わない」という働きもある
  5. 05だから、「誰かの影響を受けている自分」は偽物ではない
  6. 06「もらったもの」と「今の自分が選ぶもの」を分ける
  7. 07取り入れと「同一化」は少し似ています
  8. 08「攻撃者との同一化」とも違う
  9. 09「褒められた言葉」も、自分の中に残る
  10. 10問題は、「内側に誰が住んでいるか」
  11. 11「自分に優しくしましょう」で変わりにくい理由
  12. 12取り入れたルールは、ときどき「絶対」に見える
  13. 13誰かの評価を取り入れて、自分の価値を決めることもある
  14. 14「その人に言われた」から、「自分はそういう人だ」までを分ける
  15. 15「大切な人の価値観と違う自分」になるのが怖いことがある
  16. 16「受け取ったことへの感謝」と「従い続けること」を分ける
  17. 17大切な人を失った時、「その人らしさ」を自分の中に持つことが支えになる
  18. 18ただし、「その人の人生まで引き継がなければ」となると苦しくなる
  19. 19取り入れを扱う時に使える問い
  20. 20「内側の声」を書き分けてみる
  21. 21「誰の声か分かった」だけで、すぐ消えるわけではない
  22. 22取り入れから自由になるとは、「親や周囲の影響を全部捨てること」ではない
  23. 23取り入れで一番大切にしたいこと

人は、誰にも影響されずに「自分」になるわけではない

子どもは最初から、

何が正しいか。

どう人と接するか。

自分をどう評価するか。

を知っているわけではありません。

困った人がいたら助ける。

約束は守る。

人に挨拶する。

失敗したら謝る。

こういうことも、

周囲との関係の中で覚えていきます。

だから、

誰かの価値観を取り入れること自体は悪いことではありません。

むしろ、

人は他者を少しずつ自分の中に取り込みながら、自分を作っていく

とも言えます。

問題になるのは、「もらったルール」を今も自分で選んでいるか分からなくなった時

たとえば、

子どもの頃から、

「人に迷惑をかけるな」

と言われてきた。

大人になっても、

仕事を断れない。

体調が悪くても休めない。

人に相談できない。

それでも本人は、

「自分がそうしたいからです」

と思っている。

でも、

休もうとした瞬間に、

「それくらいで休むな」

という声が自動的に出てくる。

この時、

昔受け取ったルールが、今も自分の中で働き続けている

可能性があります。

「自分に厳しい性格」と思っていたものが、誰かの声だったことがある

ミスをした。

すぐ、

「こんなこともできないのか」

と思う。

疲れている。

「もっと頑張れるだろ」

と思う。

人に頼りたい。

「甘えるな」

と思う。

こういう言葉を、

自分の性格だと思っている。

でも、

一度だけ考えてみます。

「この言い方、誰かに似ていない?」

父親。

母親。

先生。

昔の上司。

部活動の指導者。

誰かの顔が浮かぶことがあります。

相手はもうそこにいない。

でも、

言葉だけが自分の中に残っている。

取り入れには、「その人を失わない」という働きもある

大切な人と離れた。

亡くなった。

関係が終わった。

それでも、

「あの人ならこう言うだろうな」

と思う。

料理をするとき、

母親のやり方を使う。

仕事で迷った時、

尊敬していた先輩の言葉を思い出す。

こうして、

相手の一部を自分の中に残す。

これは、喪失を乗り越えるうえでも自然なことです。

人との関係は、

相手が目の前からいなくなった瞬間に全部消えるわけではありません。

その人から受け取ったものを自分の中に残しながら、生きていく。

それも取り入れの一つです。

だから、「誰かの影響を受けている自分」は偽物ではない

「これは父親の価値観だった」

と気づく。

すると、

「じゃあ本当の自分ではなかったんだ」

と思うことがあります。

でも、そこまで分けなくてもいい。

人は、

家族。

友人。

先生。

上司。

恋人。

本。

文化。

さまざまなものから影響を受けます。

大切なのは、

誰からもらったかではなく、今の自分もそれを持っていたいか

です。

「もらったもの」と「今の自分が選ぶもの」を分ける

たとえば、

父から、

「責任を持って仕事をしろ」

と教わった。

これは今も大切にしたい。

でも、

「休むのは甘え」

までは、今の自分には合わない。

母から、

「人には優しくしなさい」

と教わった。

それは残したい。

でも、

「自分より相手を優先しなさい」

までは残さなくていい。

つまり、

全部受け継ぐか、全部捨てるかの二択ではありません。

一部は残す。

一部は変える。

それでいいのです。

取り入れと「同一化」は少し似ています

同一化では、

「あの人のようになりたい」

という形で、

相手の特徴や振る舞いを自分に取り入れることがあります。

一方、取り入れは、

もっと広く、

相手の言葉・価値観・評価・関係そのものを、自分の内側に持つ

イメージです。

たとえば、

尊敬する上司の仕事の仕方を真似する。

これは同一化的です。

その上司の、

「結果を出せない人間には価値がない」

という考えまで、自分自身への評価基準として持つようになる。

こちらは取り入れとして考えやすくなります。

実際には、両方が重なることもあります。

「攻撃者との同一化」とも違う

以前扱った「攻撃者との同一化」では、

怖い相手、支配的な相手のルールや態度を取り入れることで、

危険を予測したり、弱い側から強い側へ移ったりして自分を守る面があります。

取り入れは、もっと広い概念です。

優しい親。

尊敬する先生。

大切な恋人。

からも起こります。

つまり、

取り入れる相手は、必ずしも攻撃者ではありません。

「褒められた言葉」も、自分の中に残る

取り入れというと、

厳しい言葉ばかりではありません。

「あなたは丁寧に仕事をするね」

「困った時に人の話を聞けるね」

「失敗してもやり直せばいい」

こうした言葉も、

自分の中に残ります。

そして、

つらい時に、

自分を支えてくれる内側の声になることがあります。

つまり、

取り入れは、自分を傷つける声だけでなく、自分を支える声を作る働きでもあります。

問題は、「内側に誰が住んでいるか」

自分が失敗した時、

頭の中で誰が話しているでしょう。

「またダメだったな」

「情けない」

「もっとちゃんとしろ」

なのか。

それとも、

「今回はうまくいかなかった」

「次はどうしよう」

「疲れていたなら一度休もう」

なのか。

自分自身との関係は、

過去に他人からどう扱われてきたかの影響を受けることがあります。

だから、

今の自分の中に、どんな他者の声が取り込まれているか

を見ることには意味があります。

「自分に優しくしましょう」で変わりにくい理由

自分に厳しい人へ、

「もっと自分に優しく」

と言う。

でも、

本人の中では、

優しくすると、

「甘やかしている」

「成長できない」

という声が出る。

これは、

優しくする方法を知らないだけではないことがあります。

厳しくすることが、正しい生き方として深く取り込まれている。

だから、

まず、

「なぜ自分に優しくすることが怖いのか」

を見ます。

取り入れたルールは、ときどき「絶対」に見える

「仕事は最後までやるべき」

「親なら子どもを最優先すべき」

「男なら弱音を吐くな」

「人に頼るべきではない」

こうしたルールを、

「自分はそう思う」

ではなく、

「普通そうでしょう」

と感じることがあります。

ここまで来ると、

取り入れた価値観が、

世界の普遍的なルールのようになります。

そこで一度、

「これは事実? それとも、自分が大切にしているルール?」

と分けます。

誰かの評価を取り入れて、自分の価値を決めることもある

「あなたは仕事が遅い」

と言われた。

その人が言った評価だったはずです。

でも、

いつの間にか、

「自分は仕事が遅い人間」

になる。

さらに、

「自分は能力がない」

になる。

つまり、

他人の評価が、自分の自己像へ取り込まれる

ことがあります。

でも、

一人の人が、

ある場面で、

ある基準から評価したことと、

自分全体の価値は別です。

「その人に言われた」から、「自分はそういう人だ」までを分ける

たとえば、

上司から、

「もっと主体的に動いて」

と言われた。

事実は、

上司からそう言われた。

そこから、

「自分は主体性がない」

になる。

さらに、

「社会人として能力が低い」

になる。

ここで、

一度戻します。

「この業務では、上司には主体性が足りなく見えた」

くらいまで。

他人から受け取った評価を、

必要以上に自分の中へ定着させない

ことも大切です。

「大切な人の価値観と違う自分」になるのが怖いことがある

親から、

安定した仕事が一番だと言われて育った。

でも、自分は違う仕事をしたい。

すると、

仕事を変えること以上に、

親と違う人間になること

が怖くなることがあります。

「親を裏切る気がする」

「これまで育ててもらったことを否定する気がする」

でも、

大切な人から何かを受け取ることと、

その人と同じ人生を生きることは別です。

「受け取ったことへの感謝」と「従い続けること」を分ける

親から学んだ。

先生から助けてもらった。

上司に育ててもらった。

感謝がある。

だから、

その人の価値観を捨てることが、

恩を裏切るように感じることがあります。

でも、

感謝していることと、同じルールで生き続けることは別です。

受け取ったものを、自分なりに作り替えていい。

むしろ、それも成長です。

大切な人を失った時、「その人らしさ」を自分の中に持つことが支えになる

喪失では、

取り入れがとても大切な意味を持つことがあります。

亡くなった人の言葉。

考え方。

癖。

好きだったこと。

それを自分の中に少し残す。

「もういないから全部終わり」

ではなく、

その人との関係の一部を、自分の中で続ける。

これは、忘れられないから前へ進めない、ということではありません。

人は、

忘れることでだけ別れを受け入れるわけではないからです。

ただし、「その人の人生まで引き継がなければ」となると苦しくなる

亡くなった家族が果たせなかった夢。

親が望んでいた人生。

尊敬した人の生き方。

それを、

「自分が代わりにやらなければ」

となることがあります。

ここでは、

大切な人を自分の中に残すことと、

その人の人生を自分が代わりに生きること

を分ける必要があります。

取り入れを扱う時に使える問い

何か強い「べき」が出た時。

一度だけ聞いてみます。

「この言葉は、誰からもらったんだろう?」

そして、

もう一つ。

「今の自分も、本当にこれを大切にしたい?」

残したいなら残す。

少し変えたいなら変える。

もう合わないなら手放す。

答えは自分で選べます。

「内側の声」を書き分けてみる

たとえば、

休みたい。

その時、

頭の中で、

「甘えるな」

という声が出る。

紙に、

昔からの声:

「それくらいで休むな」

と書く。

その横に、

今の自分:

「今日は眠れていない。休んだ方が長く働ける」

と書く。

最初は昔の声の方が強くても構いません。

大切なのは、

自分の中に一つの声しかない状態から、複数の声を持つこと

です。

「誰の声か分かった」だけで、すぐ消えるわけではない

「これは母親の価値観だった」

と気づいた。

それで翌日から自由になる。

とは限りません。

何十年も使ってきたルールです。

だから、

休もうとすれば罪悪感は出る。

断れば不安になる。

それでも、

「これは絶対の真実ではなく、昔から持っているルールなんだ」

と分かる。

すると少しずつ、

従う以外の選択肢

ができます。

取り入れから自由になるとは、「親や周囲の影響を全部捨てること」ではない

全部捨てたら、

本当の自分が出てくる。

そんな単純な話ではありません。

自分は、

これまで出会った人たちから受け取ったものも含めて自分です。

大切なのは、

それらを、

無意識に従うルールから、自分で選んだ価値観へ変えていくこと

です。

取り入れで一番大切にしたいこと

今、自分が自分に言っている言葉は、

本当に全部、自分で選んだ言葉でしょうか。

「もっと頑張れ」

「人に迷惑をかけるな」

「弱い自分ではいけない」

その言葉が、

これまで自分を支えてきたこともあります。

だから、

急に捨てなくていい。

でも、

今の自分を苦しめているなら、

一度だけ、

「これは、誰の声だったんだろう」

と立ち止まってみる。

そして、

「今の自分なら、自分に何と言うだろう」

を足してみる。

人から受け取ったものを持って生きることはできます。

でも、

その人の言葉に一生従わなくてもいい。

受け取った優しさは残す。

責任感も残す。

でも、

厳しすぎる部分は少し変える。

そうやって、

もらったものを、自分の形に作り直していく。

取り入れから成熟していくというのは、

誰の影響も受けない人になることではありません。

自分の中にいるたくさんの人の声を聞きながら、最後にどの声を採用するかを自分で決められるようになること。

それが、取り入れとうまく付き合うということなのだと思います。

FIRST STEP

その声が誰のものだったかを考える

頭の中の言葉をすぐ消そうとせず、「これは今の自分の判断か、以前誰かに言われた基準か」を分けます。

取り入れた基準の中には今も役立つものがあります。残すもの、今の自分に合わせて言い換えるものを選び直します。

「昔からの声」と「今の自分の声」を二つの欄に書くと、従うしかなかったルールを、選べる価値観へ変えやすくなります。気づいてもすぐ消えないのは自然です。

AT WORK

仕事の中で、この反応が起きる時

以前の上司の「即答できなければ無能」という基準が、異動後も残ることがあります。現在の職場で本当に求められている基準を具体的に確認します。

「普通はこうする」ではなく、今の担当、期限、評価項目へ戻し、古い声と現在の仕事を分けます。

以前の上司の言葉で、異動後も自分を責める

現在の上司が求める基準と、過去に言われた基準を分けて確認します。

休むと「周囲に迷惑をかける」と感じる

休まないことだけでなく、早めの共有や引き継ぎも責任ある行動として捉え直します。

相談すると「自分で考えろ」という声が浮かぶ

相談の目的、試したこと、聞きたい点を整理し、今の職場で許されている支援の使い方を確かめます。

褒められても、厳しい自己評価だけが残る

外からの一つの評価を絶対視せず、成果、負担、条件を具体的な事実として残します。

MORE OPTIONS

その反応を奪わず、別の守り方を足す。

急に手放そうとすると、元のつらさだけが残ります。まず選択肢を一つ増やします。

01

頭に浮かぶ「べき」を書き、その言葉を最初に教えた人や時期を確認する。

02

その基準が昔は何を守ったか、今は何を損なっているかを分ける。

03

残したい価値と、手放したい厳しさを別々に選ぶ。

04

「昔の声」に続けて、「今の自分なら」と一文を書き足す。

05

感謝や尊敬を残したまま、現在の自分に合わないルールには従わない。

WHEN TO CONSULT

医療機関へ相談する目安

防衛機制そのものを治療するのではなく、生活への影響や背景にある症状を確認します。

  • 内側の自己批判が強く、休む、食べる、眠るなど基本的な生活を保ちにくい。
  • 古い基準に従うため、過重労働や無理な対人関係から離れられない。
  • 自分を責める言葉が続き、抑うつや自傷したい気持ちがある。
  • 何を望んでいるか分からず、重要な判断をいつも他人の基準だけで決めている。
  • 声が外から聞こえる、命令されるなど、現実との区別に不安がある。
REFERENCES参考文献・執筆上の注意表示する

防衛機制に関する総説・評価研究をもとに、患者さん向けに整理しています。

  1. Defense mechanisms: 40 years of empirical researchJ Pers Assess, 2015 / PMID: 25157632
  2. The Hierarchy of Defense Mechanisms: Assessing Defensive Functioning With the DMRS-QFront Psychol, 2021 / PMID: 34721167
  3. Involuntary coping mechanisms: a psychodynamic perspectiveDialogues Clin Neurosci, 2011 / PMID: 22034454

研究上の分類は複数あり、同じ反応の意味も状況によって異なります。このページだけで診断することはできません。

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