こころの仕組み04
「苦手な人のことは、気にしなければいいんですよ」
そう言われて、「それができたら困っていない」と思ったことはないでしょうか。
職場に苦手な人がいる。言い方がきつい。こちらの話を聞かない。必要な情報を共有しない。仕事の進め方が雑に見える。何度伝えても同じことをする。
その人と話した日は、帰りの電車でも腹が立っている。家に帰っても思い出し、気づけば相手はもう目の前にいないのに、頭の中ではずっと一緒にいます。
こういう時に「相手は変えられないから、あなたが気にしないようにしましょう」と言われても、あまり役には立ちません。
苦手な人への対処には、少なくとも二つの問題が混ざっているからです。
実害があるなら、気にしすぎの問題ではない
たとえば、同僚が必要な情報を共有してくれず、二重対応になる、仕事が遅れる、自分が顧客へ謝ることになる。
これは「あなたが気にしすぎている」という問題ではありません。実害があります。
こういう時に必要なのは、心を広くすることではなく、仕事の仕組みを変えることです。
「ちゃんと共有してください」と何度も頼むだけでなく、次のように、相手の善意や記憶力だけに頼らない形へ変えます。
- 予約を入れたら、共通の表へ入力する
- 予定変更は、指定したチャットへ記録する
- 口頭で決まったことも、短く文章で確認する
- 担当範囲と、対応できない条件を明確にする
相手がもっと配慮できる人になるかどうかは、相手の問題です。しかし、相手の行動によって自分の仕事が増えたり、体調を崩したりしているなら、そこは自分が守ってよい領域です。
不快なのか、実害なのかを分ける
反対に、実害はそれほどないのに、どうしても腹が立つこともあります。
「仕事のやり方が雑に見える」「机の使い方が気になる」「普通ならこうするのに、あの人はしない」
こういう時は、「違うやり方」と「間違ったやり方」が同じになっていないかを確認します。
自分は、予定が変われば連絡する。物は使ったら戻す。周囲に迷惑をかけないようにする。そうやってかなり気をつけてきた人ほど、それをしない人を見ると腹が立ちます。
特に、「自分はこんなに我慢して守っているのに、この人は守らなくても平気なんだ」という不公平感があると、怒りは強くなります。
その時は「もっと寛容になろう」とするより、「私は、なぜこのルールをここまで大切にしているのだろう」と一度考えてみます。
「人に迷惑をかけてはいけない」「ちゃんとしていなければならない」「間違ったことはそのままにしてはいけない」
もしかすると、自分自身が長く守ってきた厳しいルールを、相手にも同じように求めているのかもしれません。
苦手な人への対応を5つに分ける
苦手な人への対応は、次の順番で整理すると考えやすくなります。
- 「何をされると困るのか」を一つにする「自分勝手な人」ではなく、「予定変更を共有しない」のように、人格評価から具体的な行動へ戻します。
- 実害なのか、不快なのかを分ける仕事、健康、安全に影響するなら対応が必要です。不快さが中心なら、相手を変えるより距離や期待値を調整した方がよい場合があります。
- 安全な範囲で、具体的に伝える「○○がないと△△が起きるので、今後は□□してください」と、行動・影響・依頼を伝えます。直接伝えることが危険な状況では無理をしません。
- 変わらないなら、説得を仕組みに変える記録、共通の共有方法、上司や第三者、担当変更など、「相手が変わらなくても回る形」へ移ります。
- 対応が終わったら、頭の中でも区切る「今日できることは残っているか」を確認し、なければ問題解決をいったん終了します。納得や怒りが残っていても構いません。
これは相手を許す方法ではありません。相手によって自分が消耗し続けないための方法です。
その場で言いたいことを言えないとき
相手が苦手だと、「また否定されるかもしれない」「面倒な人だと思われたくない」「これ以上関係を悪くしたくない」と思い、その場では何も言えなくなることがあります。
そして家に帰ってから、「あの時こう言えばよかった」と考え続けます。
この場合、「もっと勇気を出して言いましょう」ではなく、その場で結論を出さないという方法があります。
- 「今すぐ判断できないので、確認してから返事します」
- 「その件は一度整理して、後ほど回答します」
- 「認識が合っているか確認したいので、文章でもいただけますか」
苦手な相手を前にすると、普段より脅威を感じ、考えられる選択肢が減ることがあります。その場で完璧な返事をせず、時間を作って判断力を取り戻してから答えます。
上司など、距離を取りにくい相手の場合
相手が上司や取引先など、力関係があり、関わらざるを得ない人の場合は、正面から言い返すことだけが解決ではありません。
こころが弱っている時に、相手へ強く主張する、証拠を集める、社内で争うといった対応は、負担が大きすぎることもあります。
- 返答をその場で決めず、確認する時間を取る
- 指示や変更点を、短いメールで確認する
- 一人で話すことが難しければ、第三者を同席させる
- 信頼できる上司、人事、産業医などへ状況を共有する
- 体調への影響が強ければ、医療機関へ相談する
相手の言動をすぐに「ハラスメント」と名づけなくても、自分への影響を減らす対応はできます。大切なのは、正しさを証明することより、まず自分が安全に働ける状態を確保することです。
仕事が終わった後まで、相手と一緒にいない
苦手な人のことを考え続けてしまう時は、「この人についてどう感じるか」ではなく、「この件について、今できる行動が残っているか」を確認します。
上司へ相談するなら要点をメモして終わり。メールが必要なら下書きを作って終わり。今夜できることがないなら、「今日はここまで」で終わりにします。
感情が終わるまで考えるのではなく、必要な行動が終わったら考える仕事を終える。この考え方は、「気持ちを切り替えられないとき」で詳しく解説しています。
その人が、自分のどこを刺激しているのか
それでも「どうしてもこの人のことが気になる」という時は、相手だけでなく、その人が自分のどこを刺激しているのかを見る価値があります。
「否定されるのが怖い」「バカにされるのが許せない」「自分だけ損をするのが耐えられない」「ルールを守らない人を見ると腹が立つ」「嫌われていると思うと落ち着かない」
ここまで来ると、相手は単に苦手な人なのではなく、自分が昔から大切にしてきたものや、怖がってきたものを刺激する人なのかもしれません。
たとえば、「否定される=自分には価値がない」が強い場合は、相手への話し方だけでなく、注意されたことと自分の価値を分ける練習が必要になります。
苦手なままでも、必要な関係は続けられる
苦手な人とうまく付き合うとは、その人を好きになることではありません。何をされても気にしなくなることでも、相手を完全に理解することでもありません。
必要なのは、相手の問題と自分の問題を分けることです。
変えてもらう必要がある行動には具体的に対応する。変わらないなら、仕組みや距離で自分を守る。そして、自分の中で必要以上に反応している部分があるなら、「なぜこの人だけ、こんなに自分を揺らすのだろう」と自分の方も少し見てみます。
相手を変えなくてもよい。自分を全部変える必要もありません。その間にある、現実的な方法を探していきます。
一人で対応することが難しくなったら
人間関係の悩みによって次のような状態が続く場合は、職場の相談先や医療機関へ相談することも選択肢です。
- 相手のことを考え続け、眠れない
- 出勤前に動悸、吐き気、涙が出る
- 仕事へ行くことが難しくなっている
- 注意されると、長時間自分を責め続ける
- 気分の落ち込みや食欲低下が続いている
- 「消えたい」「いなくなりたい」と感じることがある
当院では、対人関係の出来事だけでなく、睡眠、身体症状、仕事への影響、休職の必要性なども含めて整理します。
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参考文献
- Chris AC, et al. A meta-analysis of experienced incivility and its correlates: Exploring the dual path model of experienced workplace incivility. J Occup Health Psychol. 2022;27(3):317-338. PubMed
- Wendsche J, Lohmann-Haislah A. A Meta-Analysis on Antecedents and Outcomes of Detachment from Work. Front Psychol. 2017;7:2072. PubMed

