うつ病の調子が悪い時、頭に浮かんだ考えが、そのまま現実のように感じられることがあります。
仕事で一つ失敗すると、「自分は何をしてもダメだ」と思う。朝から身体が動かないと、「もう回復しない」と思う。人からの返事が遅いと、「迷惑をかけて見放された」と思う。
もちろん、その考えを好きで選んでいるわけではありません。気分が落ち込むほど否定的な考えが浮かびやすくなり、浮かんだ考えを事実として受け取り、さらに気分が落ち込むことがあります。
この循環に対する心理療法の一つが、マインドフルネス認知療法(Mindfulness-Based Cognitive Therapy:MBCT)です。
MBCTについては、「リラックスする方法」「無心になる練習」「前向きに考え直す治療」と説明されることがあります。しかし、本来の目的は少し違います。
2026年にPsychological Medicineで発表された研究では、通常の心理療法を十分に受けても症状が残ったうつ病の方を対象に、MBCTがどのように働くのかが検討されました。
マインドフルネス認知療法(MBCT)とは
MBCTは、認知療法の考え方とマインドフルネス瞑想の練習を組み合わせた、構造化された心理療法です。もともとは、うつ病から回復した方の再発予防を目的として開発されました。
今回取り上げる研究で実施されたのは、スマートフォンのアプリや短い瞑想動画ではありません。経験のある治療者が担当し、個別の説明面接に続いて、オンラインで週1回、計8回のグループセッションを行うプログラムでした。
前半では、呼吸、身体感覚、考え、感情に注意を向ける練習を行い、後半では、その気づきをつらい感情や日常生活の中でどう使うかを学びました。
目指すのは、否定的な考えを無理に肯定的な考えへ置き換えることではありません。否定的な考えが浮かんだ時に、すぐその内容へ巻き込まれず、少し距離を取れるようになることです。
心理療法を受けても症状が残った234人を調べた研究
RESPOND試験には、英国の公的な心理療法サービスで、少なくとも12回の集中的な心理療法を受けても寛解に至らなかった成人234人が参加しました。全員が、構造化面接で大うつ病性障害の基準を満たしていました。
参加者は、次の二つのグループへ無作為に分けられました。
- MBCTと通常治療を受けるグループ
- 通常治療のみを受けるグループ
うつ症状はPHQ-9、後で説明する「脱中心化」はExperiences Questionnaireという質問票を使い、開始前、10週後、34週後に評価されました。
参加者の開始時のPHQ-9平均点は約18点で、約4割が重度に相当する範囲でした。今回の論文は、すでに報告された臨床効果を踏まえ、症状の重さによって効果が変わるのか、脱中心化が効果を仲介しているのかを詳しく調べた二次解析です。
研究の鍵になった「脱中心化」とは
この研究でMBCTの中心的な仕組みとして調べられたのが、脱中心化(decentering)です。
脱中心化とは、考えや感情を、自分自身や現実を正確に表すものとしてではなく、時間とともに変わる心の出来事として観察する力を指します。
たとえば、
- 「自分は失敗ばかりだ」から、「自分は失敗ばかりだ、という考えが浮かんでいる」へ
- 「もう回復しない」から、「今、頭が回復しない未来を予測している」へ
- 「何もできない自分には価値がない」から、「気分が落ちた時、能力と自分の価値を一緒に評価しやすい」へ
と言葉を少し変えてみます。
これは、「その考えは間違っている」と打ち消すことでも、「気にしなければよい」と受け流すことでもありません。つらい考えが浮かんでいる事実は認めながら、その考えにすべての判断を任せないための距離を作ります。
脱中心化は、治療効果の一部を説明していた
研究では、MBCTを受けたグループで、治療後の脱中心化がより大きく高まりました。そして、脱中心化の高まりは、その後のうつ症状の改善と関連していました。
統計モデルでは、MBCTが34週後の症状へ及ぼす効果の一部が、10週後までの脱中心化の変化を通じて説明されました。間接効果はPHQ-9で約0.52点でした。
ただし、これは「脱中心化だけでうつ病が改善した」という意味ではありません。仲介したのは効果の一部であり、治療者やグループとの関係、生活の変化、行動の変化、通常治療など、ほかの要因も関わります。
症状が重いと、マインドフルネスを学べないのか
MBCTはもともとうつ病の再発予防として発展したため、強い症状がある時には、集中力や意欲の低下によって練習が難しくなるのではないかという懸念がありました。
今回の解析では、開始時のうつ症状が重いほどMBCTの効果が弱くなるという結果は認められませんでした。また、症状の重さによって、脱中心化を身につけにくくなるという証拠もありませんでした。
さらに、脱中心化の高まりと、その後の症状改善との関連は、開始時の症状がより重い人で強く表れました。
ただし、ここから「重症の人ほどMBCTが効く」と結論づけることはできません。重症度による仲介効果の解析は探索的で、研究はこの解析に合わせて人数を設計したものではありません。開始時の点数が高い人には改善できる幅が大きいことや、平均への回帰も結果へ影響した可能性があります。
この研究からは言えないこと
論文の結果を、日常で行うマインドフルネス一般へそのまま広げないことが大切です。
- アプリや独学の効果を調べた研究ではない経験のある治療者が、決められた手順で8回のグループプログラムを実施しました。
- 薬や通常の診療を置き換える研究ではない比較されたのは「MBCT+通常治療」と「通常治療のみ」です。MBCTだけで治療した研究ではありません。
- すべてのうつ病の方を含んだ研究ではないプライマリケアで安全に対応できない自傷他害リスク、精神病症状、躁状態などがある方は対象外でした。
- 仕組みが証明されたわけではない脱中心化の変化が先に測定されていても、仲介分析だけで因果関係を完全に証明することはできません。
- 無理に瞑想すればよいわけではないつらい記憶や感情が強まる方もいます。症状と安全性に合わせ、専門家と方法を調整する必要があります。
日常で試すなら「考えの内容」より「考えとの距離」を見る
MBCTそのものは、訓練を受けた治療者による構造化されたプログラムです。一方、脱中心化の考え方は、日常で自分の状態を整理する時にも参考になります。
- 浮かんだ考えを短く言葉にする「自分は迷惑だ」「もう治らない」など、今浮かんでいる考えを一つだけ確認します。
- 「〜という考えが浮かんでいる」と付け足す正しいか間違いかを急いで決めず、まず心の中に生じた出来事として扱います。
- 身体と感情も確認する胸が苦しい、身体が重い、怖い、恥ずかしいなど、考え以外に起きていることへ注意を広げます。
- 今できる行動を一つ選ぶ水分を取る、薬を飲む、予定を減らす、誰かへ連絡する、受診するなど、考えとは別に次の行動を決めます。
目標は、すぐ前向きになることではありません。「もう無理だ」という考えがあっても、今日の予定を一つ減らす。「自分には価値がない」と感じても、処方された薬を飲み、診察へ行く。考えが残ったままでも、自分を守る行動を選べれば十分です。
セルフケアだけで抱え込まない方がよい時
マインドフルネスや考え方の工夫だけで、すべてのうつ症状に対応する必要はありません。次のような状態がある場合は、医療機関へご相談ください。
- 気分の落ち込みや興味の低下が続いている
- 眠れない、食べられない、仕事や家事が大きく止まっている
- 自分を責める考えから離れられない
- これまで受けた治療で十分に改善せず、今後の方針に迷っている
- 「消えたい」「死にたい」という考えが強くなっている
具体的な自殺の方法を考えている、準備をしている、衝動を止める自信がない場合は、一人で練習を続けず、身近な人、医療機関、地域の相談窓口、119番などへ早めにつながってください。
考えをなくすのではなく、考えにすべてを決めさせない
うつ病の時には、否定的な考えが繰り返し浮かびます。そのたびに「また考えてしまった」と責めると、考えを消すことが新しい課題になります。
MBCTが目指すのは、否定的な考えが二度と出ない状態ではありません。考えが浮かんでも、それを自分や現実のすべてだと決めず、少し距離を取って次の行動を選べる状態です。
「自分はダメだ」と思っている。
それでも、その考えは今の心に浮かんでいる一つの考えであり、あなた全体を確定する判決ではありません。
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参考文献
- Barnhofer T, Dunn BD, Strauss C, et al. Mechanisms of mindfulness-based cognitive therapy in difficult-to-treat depression: moderation and mediation analyses from the RESPOND trial. Psychological Medicine. 2026;56:e228. doi:10.1017/S0033291726105212. PubMed
- Barnhofer T, Dunn BD, Strauss C, et al. Mindfulness-based cognitive therapy for adults with difficult-to-treat depression: a multicentre, single-blind, randomised controlled trial. The Lancet Psychiatry. 2025;12(6):433-446. doi:10.1016/S2215-0366(25)00105-1. DOI
本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療を目的とするものではありません。

