DIRECTOR'S JOURNAL

マイスリーは、ベンゾジアゼピンではないから安全なのか

コラム

マイスリーは、化学構造としてはベンゾジアゼピンではないZ薬です。しかし同じGABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用するため、「非ベンゾだから依存も健忘もない」とは言えません。

寝つきへの速さが長所になる一方、服用後の行動や記憶の抜けには特に注意が必要です。

「非ベンゾジアゼピン系」は、作用点も安全上の注意も別物という意味ではありません。Z薬としての特徴を正確に理解します。

マイスリーとは

BRAND

マイスリー

販売名です。

GENERIC

ゾルピデム酒石酸塩

一般名です。

CLASS

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z薬)

不眠の形と翌日の生活に合わせて選びます。

作用機序――脳の興奮をどう抑えるのか

GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用します。比較的α1サブユニットへの選択性があり、鎮静・睡眠作用を示します。

国内で承認されている適応

国内では不眠症に承認されていますが、統合失調症および躁うつ病に伴う不眠は除かれます。背景疾患の診断と治療が必要なためです。

用法・用量

通常5~10mgを就寝直前に服用し、高齢者は5mgから開始します。1日10mgを超えません。服用後に一度起きて作業する予定がある時は使用しません。

ここに示すのは国内添付文書の一般的な情報です。ご自身の処方を変更する目安ではありません。自己判断で増量、追加、中止をしないでください。

作用時間と代謝

最高血中濃度まで約0.7~0.9時間、半減期は約1.8~2.3時間です。短くても、個人差、年齢、肝機能、睡眠時間によって翌朝に影響します。

半減期は比較の手がかりですが、体感する作用時間そのものではありません。年齢、肝機能・腎機能、併用薬、服用期間、睡眠時間によって効き方と残り方は変わります。

診療では、どのように使い分けるのか

寝つきが悪い方には速さが役立つことがあります。中途覚醒が中心なら、薬の作用時間と不眠の型が合っているかを見直します。

服用後のネット通販、食事、電話、外出などを本人が覚えていないことがあります。処方時には、効き目だけでなく服用後の行動を具体的に確認します。

マイスリーの「効き味」をどう考えるか

マイスリーの良さは、寝つきに焦点を絞った速さです。布団に入っても覚醒が下がらない方では、短い作用が翌朝へ残りにくい方向に働くことがあります。一方、中途覚醒や早朝覚醒が中心の方には、短さがそのまま弱点になります。

当院では、マイスリーは半減期が短いため、中途覚醒・早朝覚醒が中心の方には不足しやすく、健忘や反跳性不眠の問題が目立つことがある、という印象があります。寝つきだけを狙う時と、睡眠全体を整えたい時では、同じ薬を選ぶとは限りません。

私が特に確認したいのは、「寝つけたか」より服用後の行動です。飲んでからスマートフォンを見る、家事をする、夜食を取る、会話をする。その時間の記憶が抜けていないかを、本人だけでなく同居者の情報も含めて確認します。

短く抜ける薬でも、夜中の追加、飲酒との併用、睡眠時間の不足があれば翌朝の安全性は保てません。非ベンゾジアゼピン系という名称を、安全性の保証として受け取らないことが大切です。

向きやすい場面

寝つきが主な問題で、服用後すぐ眠れる時。

慎重に考える場面

夜勤、早朝運転、睡眠時無呼吸、高齢、転倒歴がある時。

見直しのサイン

記憶の抜け、夜間行動、朝の眠気、量の増加がある時。

一緒に増やすもの

CBT-I、起床時刻、昼寝・カフェインの調整。

身体依存と離脱をどう考えるか

Z薬でも耐性、身体依存、反跳性不眠が起こり得ます。連用後は急に止めず、必要性と不眠の経過を見ながら見直します。

身体依存と、薬の使用を自分で制御できず生活に支障が出る使用障害は同じではありません。どちらも決めつけず、量、回数、服用目的、得られている利益、困っていることを具体的に確認します。

主な注意点

  • 確認すること前向性健忘、もうろう状態、複雑な睡眠行動
  • 確認すること服用後に十分な睡眠時間を取れない状況
  • 確認すること飲酒や他の鎮静薬との併用
  • 確認すること夜中の追加服用、翌朝の運転

服用後の運転や危険作業は避け、飲酒や他人に処方された薬との併用をしないでください。呼吸が浅い、意識がもうろうとする、普段と違う行動がある時は、速やかに医療機関へ相談してください。

関連する薬と総合ガイド

参考文献・公的資料

  1. マイスリー(ゾルピデム酒石酸塩).PMDA 電子化された添付文書.
  2. Stahl SM. ストール精神薬理学エセンシャルズ 第4版 神経科学的基礎と応用. メディカル・サイエンス・インターナショナル.
  3. Taylor DM, Barnes TRE, Young AH. モーズレイ処方ガイドライン 第13版 日本語版. ワイリー・パブリッシング・ジャパン.
  4. Sateia MJ, Buysse DJ, Krystal AD, et al. Clinical Practice Guideline for the Pharmacologic Treatment of Chronic Insomnia in Adults. J Clin Sleep Med. 2017;13:307-349. AASM guideline.

この記事は一般的な医学情報です。診断や個別の処方を目的とするものではありません。ベンゾジアゼピン受容体作動薬を連用後に急に中止すると、重い離脱症状が起こることがあります。自己判断で開始・増量・減量・中止せず、処方医または薬剤師へご相談ください。

PAGE TOP